Part5
エミリアの言葉に、エドガーは少しだけ気落ちした。
「ア、アルメリアも来てるのか……それは確かに、この格好じゃ会いにくいな」
「あはは、でしょー?んじゃねー」
その言葉が決定的だった。
エミリアの姉、アルメリア・ロヴァルト。彼女は無類の綺麗好きであり、エドガーが今のように汚いと、蔑んだような視線で見てくる。一部の人間が喜びそうな表情をするらしく、蔑まれたいと懇願する人間もいるほどだとか。
そんな姉を持つエミリアが去ると、エドガーは銀のスコップを持ち、今度は頭にタオルを巻き、しっかりとシャツを脱ぎ、ズボンの裾を捲って作業を開始した。
いや……もう時すでに遅しなのだが、それでも、念の為だ。
「アルメリアに怒られたくないし、ね」
眉を寄せた表情で再び川に入っていくエドガーの背は、ほんの少し残念そうな空気を醸し出していたのだった。
◇
所変わって、【七つ木の森】の中央部、一番の巨大樹が存在する場所に、その宿は存在している。
本来の経営者、エドガー・レオマリスは変わり者で有名だ。溝を浚いゴミを集め、おとぎ話が真実だと提唱する奇人変人。そんな少年が経営者だと知られれば、おそらく経営は傾きを見せること必須だろう。しかし、【福音のマリス】の客の大半は北国、【ルウタール王国】からの旅行客がメインだ。それは例え【不遇召喚士】の実態が知られても、半数の客は残るというわけでもあり、正直、エドガーにとってはどうでもいいことだった。
「――お待たせしました〜!」
宿の大食堂には、宿泊客以外の客も大勢いる。
宿泊客は【ルウタール王国】からの旅行客、そして大食堂や大浴場の利用は、多くが【王都リドチュア】からの客だった。
――コトン――
テーブルの上へ丁寧に置かれたのは、大皿の野菜炒めだった。
取り分け用の小皿も四枚配分され、腹を空かす客は「おお!」と声を出した。
「サザーシャーク野菜の炒め物と、こちら【
――コトリコトリ――
王都には存在しない、ガラス製のジョッキ。
それに注がれた麦色の酒は、キンキンに冷えていた。
「おお!!こりゃあ仕事疲れの身体に染み渡るぜぇ」
「やっぱこれだよなぁ、都じゃこんな美味い酒は飲めねぇからなぁ」
「それにこの透明なジョッキ、酒がより一層美味そうに見えるからな!」
「うふふっ。呑み過ぎには注意ですよ?」
そう優しい笑顔を見せるのは、若緑色の髪を両側の首元でおさげにした女性。
この食堂と厨房を行ったり来たりする、黒と白を基調としたウェイトレス服を着た従業員。彼女の名はメイリン・サザーシャーク。
エドガーが言っていた、【王都リドチュア】から移転して来ても働いてくれている、唯一の存在である。
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