Part4
エドガーの
かれこれ五年、いやそれ以上も前から、エドガーは魔物や魔法といった、おとぎ話でしかない存在の提唱をしていた。そうなれば当然、先の幼馴染のような態度を取られる。確かに、過去の時代には事実として存在した可能性もあるのだろう。しかしそれは大昔。エミリアの言うおとぎ話や創作でしかないわけで、一部を除き、この聖王国の誰もがエミリアと同じことを言うだろう。残念ながら、それが普通だからだ。
「さーてと、あたしはそろそろ宿に戻ろっかな?」
エドはどうするの?と聞きたいのか、小首を傾げた仕草でエドガーを見るエミリア。しかしそんな可愛い仕草も徒労に終わる。
エドガーはエミリアを見もせずに口を開く。
「僕はまだ続けるよ。今のは休憩だし」
「――あたしが髪を拭いた苦労を返して!?って、まぁいいけどさ……いつものことだし、わかってたし。どうせ夕方までやるんでしょ?」
(ヤバ……ちょっと怒ってるかも)
「そのつもりだよ。ほら、この網籠を見てよエミリア!今日はこんなに、【輝石の流砂】が――」
「あーだいじょぶだいじょぶ、あたしにはただの砂にしか見えないし」
(あ。よかった……戻った)
正直、興味など皆無だった。
確かにその網籠の中の砂はキラキラと輝き、綺麗ではある。
そういう認識はエミリアにもあるが、どう見ても砂なのは間違いない。
中には指先に乗るような小石ほどのサイズの物もあるが、それとて路傍の石としか見えないわけだ。
「だろうね。うん、知ってた」
いくらエドガーが懇切丁寧に説明しようとも、そこら辺に落ちているゴミの説明をされていると同義なのだ、残念ながら。
「そんなに拗ねないでよー。あたしだって、エドが普通の話をしてくれれば聞くんだよ?姉さんも兄さんも、同じだと思うけどねー」
軽くウインクをして、エミリアはエドガーを励ます。
しかしこれは当然の対応ではない。エドガーが【王都リドチュア】の近郊であるこの森に住んでいる時点で、人を避けているのは明白だ。
もしもエミリアが普通の民のような対応をすれば、きっと目も当てられないような態度でエドガーを馬鹿にしている。それをしないのは、エミリアやその兄と姉が、エドガーの大切な幼馴染だからだ。
「僕は【
「【魔具】って、その砂とか、そこら辺の草とか、動物の皮とか骨とか……でしょ?」
実に嫌そうな顔だと、エドガーは思ったことだろう。
しかしエミリアの言う通り、それは本当のことだ。普通に考えればゴミなのは当然、そしてそれを拾い集め、ましてやそれを布教しようとしている少年が都でどう見られるか、結果は見るまでもない。
「だからゴミじゃないんだって、何度言えば」
「はいはい。それじゃ、あたしは宿に戻るから、エドも早めに切り上げて帰ってきてよね。アルメリア姉さんも来てるんだからさー。怒らせたくないっしょー?」
クルリとターンをして、エミリアは会話を回避した。
そしてその言葉に、エドガーも「うっ……」と低い声を漏らすのだった。
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