Part2


 少女……エミリアはこの水辺エリアに用意されていたテーブルに着くと、片肘を付いて幼馴染の少年を見た。

 呆れていた台詞とは裏腹に、その頬はほんのりと紅潮して赤い。少年を見つめる瞳はほんの少し潤んでおり、その意図は……恋をする乙女そのものだった。


「ねーエドー。あたしが来たんだけどー。可愛い幼馴染のエミリアちゃんが来たんですけどー」


 わざとらしい声音で少年、エドガー・レオマリスに声を掛ける少女。


「――ん?……ああ、エミリアじゃないか!」


 一息ついたのか、エドガーは少女、エミリア・ロヴァルトに気付いた。

 泥だらけの顔でエミリアを見る表情は、大いに満足気であり、その腰に装着された網籠には、何かがキラキラと輝いていた。

 エドガーはその網籠の中身をちらりと見ると、一瞬だけ目元を細め笑い、網籠をコツンと叩いた。その仕草を見て、エミリアと呼ばれた少女はエドガーに対して。


「どうやら大量みたいだね、おめでとー。あたしたちにはゴ……価値があるようには見えないけどさー?」


 言いかけて止めたのは、“ゴミ”というワードだった。

 それを口にするとエドガーが不機嫌になると知っているから控えたが、事実、聖王国の人間全てから見ても、その網籠の中の物体は……ゴミだった。

 水辺から上がって来るエドガーは、エミリアの言葉に笑いながら答える。


「ははっ。何度も言ってるけど、これの価値を理解できるわかるのは一部だけさ。それに、エミリアたち数人が僕を理解してくれるならそれでいいし、誰に言われてもこの溝浚どぶさらいを止めることはないよ、なにせ宝の山……だからね」


 汚れた身体をタオルで拭きながら、清々しい顔でエミリア……幼馴染の少女を見た。エミリアは呆れたように立ち上がり、エドガーの後ろに回ってタオルをぶんどり、彼の頭に向けた。


「ほらほら、まだ全然汚れてるから!ちゃんとしないと風邪をひくって何度も言ってるじゃんもーー!」


 ガシガシと、エドガーの茶髪をタオルで拭くエミリア。

 エミリアは現在16歳、エドガーはもうすぐ15歳を迎えるが、まだ14歳だ。

 年上の幼馴染に髪を拭かれながら、エドガーは少年らしい笑顔を見せる。

 「あはは」と笑いながらもなすがままにされ、二人の関係性が垣間見える時間だった。


「それで?今日はどうしたんだい?確か、【従騎士】の仕事は今日もあったはずだったよね?この森まで距離は近いとはいえ、【王都リドチュア】から毎日のように……よく飽きないね」


 その軽い言葉に、エミリアはエドガーの後頭部を軽くはたいた。

 こう、ペチンと。


「あいたっ」


「まったく、あたしが誰のために来てると思ってんのよ。【従騎士】の仕事は、基本的に姉さんが休みの日はあたしも休み。暇だからね、来てあげてんのよ」


「へぇ……」


 ありがたさを求めたような台詞に、エドガーは半眼で幼馴染の少女を見上げる。

 その視線を逸らすように、エミリアは続ける。


「そ、それにさ、こんな森に五年も引きこもって、折角王都にあったお宿もそのまま移転しちゃうし、なんだっけ……【従魔】?のたちも従業員にしちゃったんでしょ?」


 ――ペチン――

 もう一度叩かれ、再度「あいたっ!」と小さく声を出したエドガー。

 しかし笑顔のまま、エドガーはエミリアに向けて口を開く。

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