第4話 ソルディア王国騎士団到着
街は一時的に静けさを取り戻した。しかし、フィルネストの胸には安堵よりも不安が残っていた。先ほどの戦いで彼女の世界が大きく変わったのだと、肌で感じていた。
その時だった。遠くから馬のひづめの音が瓦礫に覆われた街路に反響する。その重厚な響きは、次の波乱を告げる鐘の音のようにも思えた。
金色の太陽を象った旗を掲げた一団がゆっくりと街へ近づいてくる。それはソルディア王国の象徴である「太陽の紋章」を身にまとった騎士団だった。
銀髪の騎士が風になびくマントを背負いながら、統率の取れた騎士団を率いている。その鋭い目には、戦場を幾度も潜り抜けてきた者だけが持つ冷静さと威圧感が宿っていた。彼の姿はどこか神聖さすら感じさせ、道行く人々は自然と目を奪われていく。
フィルはその姿を見た瞬間、次の試練がもう目の前に迫っていることを直感した。
騎士団はフィルとエイレンの前で止まり、先頭の銀髪の騎士が馬を下りて澄んだ声で名乗りを上げた。
「あなたは、この街の領主の娘、フィルネスト=リューヴェン殿とお見受けする!」
鋭い瞳を持つ隊長は、敬意を込めつつも厳しい口調で続けた。
「我が名はロウェン・ヴァルター。ソルディア騎士団の団長だ。王の命を受け、この地に参上した。街が襲われたと聞いているが…状況を説明していただきたい。」
フィルは息を整え、冷静を装って頷いた。
「騎士団の助けが必要でした…街が魔物に襲われまして…でも、なんとか被害を抑えることができました。」
「抑えられた、というのはどういうことか?」
ロウェンの目が微かに細まり、言葉の裏を探るような視線を向けてくる。
フィルは指に嵌まった指輪を見つめ、一瞬迷いを見せたが、すぐに口を開いた。
「私の家に伝わる伝説の指輪を使って、古の勇者を目覚めさせました。その力で、街を守ることができたのです。」
ロウェンの眉がわずかに動く。彼の瞳には、興味と疑念が入り混じった表情が浮かんでいた。
「勇者、か…。その力で魔物を撃退したというわけだな。」
しばらく沈黙が続いた後、彼は鋭い声で命じるように言った。
「よかろう。ただし、今後はこの街とあなた方の行動を、我々が監視させてもらう。姫の捜索も含め、魔物討伐は我々の任務だ。」
「姫?」フィルは眉をひそめた。
ロウェンは短く頷きながら答えた。「我が王国の王女が行方不明となっている。その裏には、魔物の復活が関与している可能性がある。」
フィルはその言葉に驚きを隠せなかったが、冷静を装って返事をした。
「わかりました。それなら、私たちもこの街を守る者として協力させてください。」
ロウェンは満足げに頷いたが、その目は相変わらず冷たいままだった。
「もちろんだ。ただ、今後の行動は私の指示に従ってもらう。」
エイレンが小声で囁いた。「お嬢様、この人…言葉の裏に何か隠している気がします。」
フィルはロウェンの背中を見つめ、小さな声で答えた。「わからないわ。でも、今は手を組むしかない気がする。」
ロウェン・ヴァルターは騎士団を指揮し、街の警備を整えるよう命じた。その背中は確かに頼りがいがあるものの、どこか冷たく計算されたものを感じさせた。
フィルネストは指輪を握りしめ、心の中で静かに語りかけた。
「勇者様…これから何が待ち受けているんだろう?でも、なんとか乗り越えていくしかないわよね。」
指輪からの応答はない。しかし、フィルにはログの存在が確かに感じられた。そしてそれは、彼女をまた次の物語へと駆り立てる、静かな力になっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます