腐った法王から騎士団長サマを助けたら、NTRになっていた件

マロン64

カイエンは激怒した。

 俺は無性に怒っていた。名前はカイエンだ。俺は田舎のランポー村から騎士になることを夢見て、歩いて一か月かけて王都ラウンドドームにやってきたんだ。


 俺の村から来た何人かの若者が、騎士団試験を受けるために王都へ出て行った。だが、誰一人として戻ってきた奴はいない。憧れの騎士団で何が起きているのかを知りたかった。そしてその原因が、目の前の腐った法王だと確信した。


 憧れていた王都の聖騎士団がこんなクソみたいなやつに好き放題されてるなんて……


「法王アルク・ランゴスタ!! 貴様に決闘を申し込む!」

「ゲーヒッヒッヒ、私の身分は何かご存じですか? 教会の象徴ですよ? お前みたいな無価値な平民が決闘を申し込んで受理されるとお思いですか?」


 豚のようにぶくぶく太った気持ち悪い五十代くらいのおっさんが俺を馬鹿にする。香水を大量につけているのか気持ちの悪い匂いがちょっと離れていても匂ってくる。

 悪趣味な野郎だ。


「うるせえ、俺はめちゃくちゃ怒ってる。悪いがお前には死んでもらうぞ」

「それは目の前のマヤを倒してもらってからでよろしいですか? それができればですが」

「済まない、本当に済まない……」


 全身に黒い鎧を着た騎士団長サマはボロボロの姿だ。こいつだ、こいつも気に食わない。なんであこがれの騎士団長サマがこんな腐ったやつの言うことを聞いてるんだ。

  

 何を考えているかわからない全身黒鎧の騎士団長サマを俺はにらみつけた。




 俺は騎士団の試験に参加するために教会が管理している聖騎士団の本部に来ていたんだ。

 騎士団に入るための試験には応募できたんだが、その後が問題だった。


「ん~? なんか違和感を感じるなあ。ちょっとだけ魔瘴(マジデビ)探知(サーチ)してみるか!」


 俺の魔瘴(マジデビ)探知(サーチ)は魔力(マジック)の場合、10メートルの範囲しか探索することができない。しかし、瘴気(デビル)だけは半径10キロまでなら探せるんだ。田舎の方では魔王の呪いを受けた魔物や亜人たちが何故か知らないが村に来るからな。


 そんな人たちの呪いを解いたりしてたらすごく懐かれたなあ。


 まあ昔話は置いておこう。


 その魔力(マジック)探知(サーチ)をし始めるとすぐに異様な瘴気(デビル)を感じた。


「なんで教会の地下にこんな異様な瘴気(デビル)を感じるんだ?」

 俺がどうこうできる問題じゃないかもしれないが…… 

 気になったのでその場所に向かうことにした。


「そういえば、あいつが困ったときに呼んでほしいって言ってたなあ」

 俺は教会の柱の隅に隠れると影に向かって呼びかける。


「シャルフ、来い」

 すると柱の影が形を変え、1メートルくらいの狼の形に変わる。

 膨らみ、黒い狼の形に変わると俺はその影に飲み込まれる。


「ご主人!! 浮気してなかったか?」

 影の世界の中で黒い狼耳にふさふさの尻尾が生えた少女が俺に抱き着いてきた。

「浮気なんかしてねえ、ってかお前のご主人でもねえ!」


「ご主人は、散歩に行ったら必ず女を連れて帰ってくるのだ! 油断できないのだ」

「人を歩く女たらし見たいに言うんじゃねえ! なぜか俺の村に呪われた女ばかり来るのが悪い!」


 俺はシャルフにもみくちゃにされて、顔にほおずりされた後に解放された。

 こいつ放っておくと顔をペロペロしだすからな。今はそれどころじゃないんだ。

 「シャルフ、この教会の地下に瘴気(デビル)を感じる。お前も何か感じないか?」


「瘴気(デビル)? ここ教会じゃないのだ? 聖なる気配を感じるだけだし、辺りを探ってみたけどそんなのないのだ」

 え? シャルフは昔呪われていただけに瘴気(デビル)に敏感なはずだ。俺の勘違いか?

 魔瘴(マジデビ)探知(サーチ)をするがやはり教会の地下に瘴気(デビル)の反応がある。


「シャルフ、教会の地下に何かないか?」

「うーん、何か変な気はするけど、異常は感じないのだ」

「ひとまず、教会の地下にこっそり行きたいんだ。連れて行ってくれ」

「変なご主人なのだ。しょうがないから一緒に行くのだ」


 シャルフは文句を言いながら、モフモフの尻尾をブンブン振っていた。怒っているのか?

 女心は全くわからん。


 シャルフは、俺を影の世界に入れたまま移動を開始する。


「シャドウ・ウォーク、なのだ!!」


 影の色と同じ、墨のような黒が教会中を包む。


 その瞬間、教会中の影が一種の亜空間と化した。


 教会中の影にいたものは一瞬違和感がするが、その違和感も一秒となく消える。

 これでこの領域の影のすべてにアクセスできるようになったな。


「シャルフ、向かうぞ!」

「おう! なのだ!」


 俺たちは教会の地下にシャドウ・ウォークで向かった。




 教会の地下は女神像が飾られている聖堂とは全く雰囲気が違った。松明(たいまつ)に照らされた床や壁は薄汚れ、カビだらけの上に血の跡まであった。

 

「これはひどいのだ……」

「まるで誰かが拷問(ごうもん)されてるみたいじゃないか……」


「……だ……れ……だ」

 影の世界から、声のする方に向くと背中を鞭で打たれ、血でただれている男がいた。ひどくぼろぼろで、瘴気(デビル)にもさいなまれている。


 待て? こいつ、俺たちが影の中にいるのに気づいた。只者(ただもの)ではないな。

 シャルフは陰の中でどこかから見られているのか? とキョロキョロして警戒している。

 いや影の中にいるんだから見られるはずがない。通常の魔力(マジック)探知(サーチ)にはひっかからないはずだが……俺もシャルフにつられてキョロキョロしていた。


「下に……二人いるな……? 頼む……たすけてくれ」


 シャルフが俺の服の袖をそいつのいる方にクイクイとむけて心配そうな顔をする。

 そうだな、俺もここで見捨ててはいけない気がする。


「シャドウ・ウォーク」を解除すると床から俺とシャルフの姿が出てくる。

 うっ、ここは血と汗のにおいが充満していてかなりきつい匂いだ。シャルフも臭いと思いつつも態度には出さなかった。えらいな。


「あんた、大丈夫か⁉ 誰にやられたんだ!」

「ご主人様が助けてくれるのだ。しっかりするのだ」

「……そこの……鎧の側に……私を近づけてくれ……」

「そんなことしてる場合じゃないだろ! 少しは回復魔法を使えるからそれで!!」


 シャルフが俺の袖をくいくいと引いて、小声で俺にささやく。

「よくわからないけど、言うとおりにしてやるのだ」

「そうは言ってもなあ……」

「……私の治療に必要なんだ。……頼む」


 そこまで言うなら、と鎧の方に謎の男を担いで近づける。男が鎧に触れた瞬間、がたがたと鎧が動き始める。まるで鎧に意思があるかのようにバラバラになった後、男の体に装着されていく。


 だが黒い靄(もや)が鎧の中に充満しているのは何なんだ。何か良くないものに思えるが……

 男は鎧が装着されていくたびにうめき声を出している。


「あれは、大丈夫なのだ?」

「大丈夫じゃ……ない気がする。あの鎧呪われてないか?」

「良くない感じがするのだ」


 よく見ると悪趣味な装飾が見られる。豚のような顔をした気味の悪い笑みをした男の顔が胸辺りにあった。この顔、どこかで見覚えがあるんだが……


 だが回復はしているようだ。でも生かさず殺さず呪いで傷を抑えているようにしか見えないが……


「おやおや、こんな地下に侵入者ですか?」

 地下に通じる階段から、甲高い男の声が響く。香水を大量につけているのかただでさえ血と汗のにおいが充満している地下がさらにくさくなった。


「法王様。こんな地下に何の御用ですか?」

 こいつが法王? 来ている服は立派だが宝石を何個もつけていてごてごてとした野郎だった。それにさっきの男が着ていた鎧の顔に瓜(うり)二つだ。


「私の愛しい騎士団長のマヤを勝手に回復させるとは……侵入者には罰が必要ですね?」


「お前がこんなひどいことをしたのだ?」

「こんなひどいこと? どの行為でしょうか。愛する奴隷が思い上がらないように罰を与えていることですか?」


「鞭で打ったり、こんなクソみたいな鎧をつけさせて無理やり従わせてるのにそれを肯定するのか?」


 法王はその問いに無言でにやにやしただけだった。


 俺は拳を握りしめた。この場所の異様さ、法王の傲慢(ごうまん)さ、そして騎士団長サマの無惨(むざん)な姿……すべてが俺の怒りを煽(あお)った。こんな場所に正義があるはずがない。


「それで騎士団長サマはなんでこんなヤツに従っているんだ?」

「……呪いがかけられていて法王様に従うしかないんだ……」

「俺が呪いを解いてやる。俺は呪いを解くのが得意でな」


 俺は田舎で自来也という自称元凄腕冒険者の爺さんに剣を教えてもらったんだ。その時に呪いの解き方についても教わったんだ。

 剣は物質を斬るものだが、自来也流は概念も斬ることができる。それは田舎にいたときに実証済みだ。だから呪いも斬れる、それだけの話だ。


「そんなことが本当にできるのでしょうか? それに私の目の前でさせるとお思いですか?

 マヤ、そいつを処分しなさい」

「法王様おやめください。こいつには不法侵入の罪で罰を与えますが、殺すのは……」

「くどいですよ。マヤ、やりなさい」


「これ以上、罪を重ねるか……法王よ……」

「まさか、俺の村から騎士志望の奴が何人か行ったが、なにも音沙汰がないのはお前のせいか……?」

「ブヒヒヒ、そんなことを気にしてもしょうがないでしょう。メイドの土産に教えてあげましょうか? 生きてはいますよ。牢獄でどうなっているかは知りませんがね」

「貴様あああ!」


 俺の怒りが頂点に達したところで、法王は気味の悪い笑いを浮かべながら指をパチンと鳴らして薄暗い地下に青白い光を放つ聖域のようなものを作り、俺と騎士団長サマを閉じ込める。腐っても聖職者か。こんなヤツに力を与えているカミサマはどうなってるんだ?


「本当に済まない。命だけは取らないようにするから……」

「うるせえ、俺はおまえにも怒ってるんだ。本気でかかってこい」


 その言葉に俯きながら無言で剣を構える騎士団長サマ。


「筋書きはどういたしましょうか……騎士団長と見習いが戦闘試験を行い、見習いが誤って死んでしまう! これがいいでしょう!」

 悪趣味な法王が一人で呟(つぶや)いて一人で笑ってやがる。気持ちの悪い野郎だ。


「この結界、魔物の僕には入れないよ! 本当に大丈夫なのだ?」

「騎士団長サマがどれくらい強いかわからないが俺は全力でこいつと戦うぞ。シャルフはそこで見てろ」

「わかったのだ。負けたら許さないのだ!」


 俺は腰に差した刀を抜いて正眼に構える。騎士団長サマは虚空(こくう)から無骨(ぶこつ)な黒い両手剣を出す。地下を舞台に騎士団長サマと俺の戦闘が始まろうとしていた。




 ブゥン!! 速い! 剣の刃筋がキラキラと薄緑色を纏(まと)いながら、迫りくる。


 ギリギリまで剣の軌道を見極め、刹那(せつな)の見切りで避ける。

 なんだ⁉ 完全に見切ったはずが躱(かわ)しきれなかった。これは風属性のエンチャントか。


 俺の顔の薄皮にうっすらと風刃が当たり、血がにじむ。


 そのままの勢いで剣を振る、振る、振る、騎士。俺の耳元で剛剣がブゥンとうるさい。


 俺は汗がにじむのを感じながら、体を動かし、見切りスキルで躱(かわ)す。俺の額や体に血がどんどんとにじんでいく。

 騎士団長サマの両手剣に黒い漆黒の闇がまとわりついていた。


 まるで死神が無表情に鎌を振るう様だった。これじゃじり貧だ。


 俺は覚悟を決めて、大きく息を吐き、構えを自来也流の攻めの龍に切り替えた。


 死神騎士団長サマが俺を聖域の壁まで追い詰めた。その佇まいには余裕がうかがえる。

 今に見てろ、その余裕をぶち壊してやる。


 死神の鎌が青白い光を吸収し、漆黒の剣筋が空中に黒い弧を描く。

 斜めの袈裟(けさ)斬り! 

 退けば死ぬ! 死中に活を求めろ!

 

「ここだっ!!」


 死中に踏み込み、鎌の間合いの中に入れ!

 漆黒の闇を置き去りにして、間合いの中に滑り込む!


 紺色の魔力(マジック)を刀の先に込め、脚(きゃく)甲(こう)の隙間を狙う!


 だが瞬く間に、死神の鎧(よろい)よりほとばしる、どす黒い闇のオーラ。

「自来也流 一の龍――」 


 その一閃は激流のごときーー


「渦潮(うずしお)斬り!!」


「ぐおおおおお!!」


 騎士団長サマの足から赤い鮮血と漆黒の黒が流れ出し、俺の顔にかかる。

 ここで仕留めろーー


「自来也流 二の龍――


 刹那、俺の頭に電流がほとばしる。何かまずい。ここで深追いするのは良くない!


 俺は瞬時に飛びのいた!奴の鎧から闇属性の魔力(マジック)が迸(ほとばし)り、黒い靄(もや)が半径三メートル付近に現れる。


 その靄(もや)は太った豚のような醜い顔になった。その顔は法王の醜悪(しゅうあく)な豚面であり、呪われし勇者と言われている顔でもあった。

 

「あの鎧に呪いをかけたのは法王本人だったのか?」

「ブヒ!! ブヒヒヒヒヒ!! お前、この鎧を通して私にまでダメージを通すとはいったい何者だブヒ!」


「そういえば、言ってなかったな。俺は自来也流を受け継ぐ唯一の弟子。カイエンだ」

「な、なに? 東方から来たりし伝説の侍。自来也の弟子だと!?」

 

 なんだ? あの酒とセクハラが大好きな爺さんが伝説の侍だと? 確かに出身地ははるか遠くの東方から来たと言っていたが……


 それにしても法王の正体は元勇者か? 呪われし勇者とは、魔王の討伐に失敗して中性的で整った顔立ちが魂ごと穢され欲望を振りまく悪の使徒になった姿だ。


 その勇者の聖剣や聖鎧は呪われて、教会が封印していたはずだが……なるほど、法王が元勇者に成り代わったことで封印も解かれてしまったんだな。


 ちなみに元勇者は顔はよかったが女癖と性格はクソだった。こんなヤツに手加減はいらないな。鎧ごと壊そう。


 それにしても体に疲労感がまとわりつき、軽い革鎧を纏っているはずが重騎士の全身鎧を装着しているようだ。


 しまった。闇属性のエンチャントは相手の体力を削るときに使うものだ。死神め、斬られてもただでは起きんか。


「闇のエンチャントで体力を削るって、こんなひどい手を使うなんて、卑怯なのだ! それにしてもご主人、顔が血だらけだよ? そんな顔で女の子を口説けると思ってるのだ?」


「今はそれどころじゃねえだろ!」


 カイエンは軽口を叩く。


 漆黒の幽鬼と化した騎士団長サマがゆらゆらと揺れながら、黒い闇を漂わせていた。

「タスケ、タスケテクレ……」


 その声は鈴が鳴るような美しい女神のような声だった。


 まるでさっきの声とは違うが、中身は騎士団長サマだ。俺は騎士になって、魔王の手から人々を助けるんだ。これくらいできなきゃ男じゃねえ!


 俺は瞬時に判断すると、腰を落として、刀を納刀する。


 切るべきは人ではなく、あのくそったれな元勇者の呪われし鎧。


 心を無にして、清流の流れを思い出す。


 静寂(せいじゃく)。俺の息遣いと、刀の柄を握る手の感触だけがそこにあった。

 次の瞬間――空気が一変した。


「自来也流 三の龍――」


 静から動。鎧だけを斬る。


 体から無駄な力をなくし、空気が流れる音だけを聞く。


 鞘に青色の魔力(マジック)が凝縮される。青龍の咆哮(ほうこう)が地下に響き渡る。


 抜刀(ばっとう)―― 刀を音もなく、魔力(マジック)を濃縮(のうしゅく)させながら引き抜く!


「青龍斬り!!」

 

 刹那(せつな)、青色の青き龍が現れ、抜刀と共に、巨大な津波のような勢いで騎士団長サマを飲み込む。めきめきと呪われし鎧を破壊する音が響いた。


 青龍が吠えた。まるで大海を裂く神の咆哮(ほうこう)だ。


「ブヒイイイイイイイ!!」


 呪われし勇者よ、清流に身を清め、安らかに眠れ。


 俺はカチンと音を立てて刀を納刀する。青龍は咆哮(ほうこう)を上げながら、鎧だけを砕く。漆黒の鎧は抗う間もなく砕け、波の泡沫(ほうまつ)と消えた。


 ペッと騎士団長サマを吐き出して、雄たけびを上げながら聖域の光をきらめかせて、天井に上り消えていった。



「何とか倒したか……」

「やったのだ! 騎士団長はどうなったのだ?」

 命までは取って……と言おうとして目を疑った。全裸の男がそこに倒れているかと思いきや全裸の金髪美女が現れたのだ。


 法王の身体はまるで霧のように薄れ、階段の下にそのまま崩れ落ちた。残されたのは、悪趣味な宝石が散りばめられたローブだけだった。その光景は、一応勝ったとは感じるが同時に、法王が振りまいた呪いが教会全体に及んでいるかもしれないなと思った。


「シャルフ、どうすりゃいいんだ?」

「ここは見なかったふりをして逃げるが勝ちなのだ」


 よし! そうするか、とシャルフの「シャドウ・ウォーク」で立ち去ろうとしたところで、突然後ろから抱き着かれる。


「主様~!! 主、主、主様~!!」

 っておい! 全裸だから、女性特有の柔らかい感触が全身にまとわりつくんだが! 形の良い豊満な胸も触り心地のいい肌の感触もすべてが嬉しい。だがしかし、血の匂いと汗のにおいが……そのきついんだ。


「てかおまえは誰なんだ!」

「ご主人から離れるのだ! 抱き着いてペロペロしていいのは僕だけなのだ!」

「そんなわけねえだろ!」

 だが全裸の美女は離れるどころか、抱き着く力を強くして、ハアハア言いながら俺のにおいをかいでくる。。


 HANASE! しばらく俺たちはもみくちゃになっていた。


「失礼しました。主様に助けていただいて、その、少々興奮してしまって」

「その主様ってのは何なんだ! てかおまえは誰なんだ!」

「さっきまで戦った相手のことをお忘れですか? 助けてくれた相手を主とあがめることは普通でしょう! 私です、私! マヤです!」


「マヤってさっきは男だったのだ。なんで女になってるのだ!」

「あの腐れ勇者が男の方が萌えるとか言って、男の姿に変えられたんです! 口調も固い感じにするように命令されて……」


 マジかよ、あいつ、普通、呪いで性別変えるか? てか腐れ勇者って本当に腐ってんじゃねえか!

「なんでも女は裏切るから、男の方がいいって言ってました。でも主様のおかげで元に戻れました! 主様の女にしてください!」


「いやいや、騎士団長どうするの? すぐにやめれないでしょ?」

 ぐぬぬぬぬ、と唸るマヤ。

 ほらほら、諦めなさい。ふっふっふ、と笑っているとマヤが明暗をひらめいたと言わんばかりに手を叩く。


「じゃあ、騎士団長は続けます! でも先ほどの「戦闘試験」は合格ということで私の部隊に入ってもらいます!」

「え? マヤの部隊って確か……」

「私以外女ですね!」

「なんでだよ! お前の所の部隊には入らん!」


「へーじゃあ良いんですね? 試験は不合格であなたは田舎に帰ってもらいます。但し、私が嫁についていきますが」

 どっちにしてもお前がくっついてくるじゃねえか! 俺は頭を抱えた。


 シャルフが俺の頭をよしよししてくれる。俺はいったいどうしたらいいんだ。


「ご主人、諦めるのだ。騎士になりたいと言ってここに来たのだからマヤの部隊に入ればいいのだ」

「フフフ、主様、諦めてください」

 ハートマークをした目でマヤは見てくる。


「言い忘れてましたが、主様の村から来た人たちは私の権限で手厚く保護しています。牢獄に入っていると腐れ勇者は言っていましたが、全員希望した職に秘密裏につけていますよ」

 俺にウィンクをしながら気になっていた情報を行ってくる。ただハートマークは飛ばすな。

 俺はそれを叩き落とした。


 それはよかった。さっきからポンコツっぷりが半端ないが一応できる女らしい。

「はあ、しょうがないか。マヤの部隊に入るよ。下っ端からこき使ってくれ」

「はい、副騎士団長としてこき使います」


 なんでだよ⁉ 絶対元副騎士団長に恨まれるフラグじゃん!

 俺は抗議するためにマヤに近づくと、いきなりふわっと抱き着かれる。


「主様、本当にありがとう。このご恩は一生かけて返します。ちなみに腐れ勇者に使われたのは不浄の方なので、そのまだ私は処女ですよ……これってNTRって言うらしいですね。キャッ」


 何をボケたことを言ってるんだと頭を軽く叩こうとすると目を潤ませたマヤが目に入る。


「元の自分に戻れたことが信じられません。主様、本当にありがとうございます……」

 彼女の声は震えていたが、心からの感謝と喜びが伝わってきた。


 俺は見る見る内に顔を赤くする。離れようとするが向こうの方が身長が高いし、離れられない。鼓動の音がどんどん大きくなる。


「主様、あなたに忠誠を誓います」

 顔を赤らめた全裸の美女が顔を赤くして、俺の唇にキスをする。


 その一瞬は世界が止まったかのように感じた。お互いの鼓動を感じながらするキスは天にも昇るようだった。


「あーずるいのだ! 私もご主人にキスをするのだ!」

 永遠に感じる時間はシャルフに邪魔される。


 俺とマヤの間に入るとシャルフが俺を押し倒して、子供っぽいチューをしてきた。

 まあこれくらいならいいか。


 俺とシャルフとマヤはかび臭い地下で笑いあっていた。

 


 それからのことは大変だった。法王殺しの件で捕まりかかったり、元副騎士団長に決闘を挑まれて、何とか倒したらまた懐かれて求愛されたり。


 俺の村にいた亜人たちや元魔物が私たちも騎士になると言い出したり。まあこの話は別の機会に話そうじゃないか。


 ――終わりーー


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腐った法王から騎士団長サマを助けたら、NTRになっていた件 マロン64 @bagabon64

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