第3話
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がさりと揺らした紙袋を憂鬱げに北瀬は見下ろした。買い物は無事終了。店員の女性の笑顔が、一瞬彼らの会話に引きつった気がしたが、見なかったことにして無事に目当ての高級チョコは手に入れられた。
「チョコで万札飛ぶとは思わないじゃん?」
「ここでは常識だが?」
「こわっ」
平然とした
「で? 次はどこに並ぶんだっけ? 俺もう帰りたいんだけど」
「荷物持ちに付き合え。この前の時に無茶な運転を強いられた俺へも、多少は報いろ」
「もう俺とバディになった時点で諦めてよ、そこらへんは」
人混みと満ちる甘い匂いに辟易して、北瀬が弱音をあげる。が、那世は無情にも群れる人々の影の向こうを、あっちの店だと指し示した。うんざり北瀬が見上げた横顔は、一見いつもの無表情だが狩人の目をしていた。なにを言っても無駄だ、引きずられていく運命しかない――北瀬はそう諦めた。
その時、人でごった返した会場に悲鳴が響きわたった。
一瞬にしてふたりの表情が鋭く研ぎ澄まされる。
「血の臭い」
ぼそりと落とした瞬間、那世が止める間もなく、北瀬は床を蹴っていた。ざわめき騒ぎ、動揺に動きが乱れる人波の上をひと飛びに跳躍する。
「またあいつは……」
頭を抱えてももう遅い。それに那世にも分かっている。異能により研ぎ澄まされた彼の嗅覚が捉えたのなら、血の匂いに間違いはない。事と次第はここからは人垣に阻まれなにも掴めないが、流血沙汰なら命に関わる危険もある。だから北瀬は人混みを掻き分ける時間を惜しんだ。考えなしに飛びでたのではなく、刹那の間にそう結論して動いたのだ。ならば那世が声をかけようがかけまいが彼は跳躍していたし、残念ながら那世としても結論は同じだった。
最速で現場の確認を。
とはいえ那世には北瀬のような人並み外れた身体能力は備わっていない。混乱にざわめく人々を掻き分けるのは一苦労だ。
(どうせなら俺も担いで連れていけ)
悪態をひとつ、もはや人混みの向こうへ消え果てた相棒へぶつけ、那世は隔てる人の間をかきわけだした。
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