第4話 いまさら剣術は……

 翌日。

 目が覚めたラウルは、己の今後について考えだす。


「どうすっかなぁ。バレたら極刑。使わなければいい。でも……」


 そう言って明るくなった窓の外を見やる。

 カーヴェル邸は、周りより少し高い丘に位置している。その丘の周辺に小さな村が囲むようにしてあり、その村をさらに囲むようにして森が広がっている。森の中に村があるという感じだ。


 その森には魔物と呼ばれる凶悪なモンスターが出現しており、トマスをトップとした自警団が大規模討伐を月1回でやることで何とか維持している。カーヴェル男爵領の収入のほとんどは、魔物討伐による冒険者ギルドの報酬だ。


 閑話休題。


 ラウルは折角の異世界なのだから魔法を使い冒険したいと思っていた。そして幸運なことにラウルには魔法の才能がある。だが、それは禁忌魔法であるため使えない。


 冒険をするためには実力が必要であり、魔法が使えないとなると残るは武術系だ。


 だが、転生してからこの5年間、ずっと魔法ばかり追い求めていた。今更、武術系を調べたり学んだりしたところで魔法の魅力には叶わないだろう。


 悶々と考えていたラウルは、朝食の時間が来たことでその思考を止めた。


 (今日の料理も上手かったなぁ)


 料理が片付いたテーブルの椅子に座りリラックスしているとトマスがラウルの目の前に座った。


「ラウル、お前ももう5歳。平民で言えばまだ子供だが、貴族で言えば礼儀作法を学ぶ歳だ」

「はい、お父様」


(何か始まったぞ……)


 突然のトマスの言葉に戸惑うが、ここは素直に聞くことにしたラウル。


「だが俺たちは成り上がりの冒険者貴族。最低限の礼儀作法を学んだらそれで良い。もとより内には、そんなことを学ばす余裕が無いからな」


(ふむふむ。それで?)


 ラウルはトマスの言葉に無言でうなずき先を促す。


「つまり時間が空くわけだな。そこで、お前には剣術を学んでもらう」

「剣術、ですか?」

「そうだ。お前はいずれ俺の跡を継ぐ。そしたらお前が自警団のトップだ。その時に必ず必要になるからな」


(跡継ぎかぁー。就活しなくていいのはありがたいけど……)


「よし。食事が終われば剣術の稽古だ」

「えぇええ!? 今からですか!?」


 そう言うと2人は家の前にある広場に向かった。ここはいつもトマスが剣を振り回している場所だ。この場だけ地面には草が生えておらず、砂砂利が目立つ。


「ほらよ」

「おおっと。ちょっと、お父様!」

「すまんすまん。やっとお前と稽古ができると思うとつい」

「ついって……」

「ハハハッ」


(ついって、あぶねぇえだろが!!! 木剣を投げ渡すなよぉお!!!)


 心の中で叫びながら投げ渡された木剣を持ちあげる。

 ずっしりとした重みが腕を支配し、へそ当たりまでしか上げることができなかった。


「お父様、重すぎますよ」

「いずれ慣れる」


 そう言うと剣術の稽古が始まった。

 

 午前中はひたすら素振りを中心。

 御昼休憩が終わると広場に設置されている藁人形を相手に午前中やったことの確認をする。

 そして午後、今日の振り返りをトマス相手に披露する、という感じだ。


「よく頑張ったな。この調子なら直ぐ上達するだろう」

「は、はい……」


(こ、この野郎……少しは手加減しろよ……)


 へとへとしながら部屋へと向かう。部屋にはお湯が用意されており、それで体を拭い汗を拭きとった後、眠りについた。


(でも、思ったより楽しかった。それにトマスも凄かったなぁ。スキル補正無しであれなら、何とか子爵のガキはもっと凄くなるのか……。やだやだ、考えるのは止めよう)


 ラウルは眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る