第3話 魔法って憧れだよね②

 翌朝、馬車に乗りベルフォード子爵領へと向かう。特に発展しているわけでは無いがカーヴェル男爵領よりも豊かであるのだと感じた。


 東京暮らしだったラウルにとってはドングリの背比べであるが。


 神殿には複数の人だかりがあった。服装からして貴族らしい者たちが1組。他は平民らしい服装だ。トマスは貴族の1組に気付き苦虫を嚙み潰したような顔をしながらラウルを連れて近づく。


「お久しぶりでございます。ベルフォード子爵」

「ふん。最近、派閥会議に参加していないが、裏切ろうとしてるのではなかろうな?」

「そ、それは誤解でございます。その件については侯爵に報告済みで――」

「冗談に決まっておろう。いや、そんなに弁明するとは、もしや……」

「ッ」


 ベルフォード子爵はトマスの反応に満足いったのか、神殿の中へと入っていく。


 そしてその場には何とも言い難い空気が広がった。トマスは、ラウルに「情けなくてすまんな」と呟いた。


「気にしていませんよ。それよりもスキルです! 早く行きましょう、お父様!」

「お、おう」


 この時ばかりはラウルの性格に助かったと思うトマスであった。神殿の中に入ると既にベルフォード子爵の息子が水晶に触れていた。


 あれは神の水晶。才ある者にスキルを与えるアーティファクトだ。神の水晶を独占しているからこそ神殿の権力は盤石だと言える。


 ベルフォード子爵の息子の鑑定が終わったらしい。彼は目を開けると喜び自分の父親に告げた。


「やりました父上! <剣士>です!」

「よくやった! 流石我が息子だ!」


 そしてベルフォード子爵はトマスへと目を向ける。


「貴様の息子はどうだろうな」

「……スキルは個人の才能ゆえ……」


 気まずい雰囲気に周りにいる平民はオドオドしだす。ラウルはというと「貴族めんどくせぇ」と小さく呟いていた。


 その時、ベルフォード子爵の息子は大股でさも偉そうにラウルへと近付いてきた。


「平民上がりの貴族。お前はどうせスキルなんて授からないだろうな」

「そ、そうですか」

「おい、もっと反応しろよ!」

「えぇ……」


 面倒な奴に絡まれたと思うラウル。早くスキル鑑定をしてもらうためトマスを置いていき神父の前に近付く。


「お願いします」

「え、えぇ。承知しました」


 困惑気味に神父は返事をすると水晶をラウルへと近付ける。


「どうでしたか?」

「ええ、っと」

「……悲しむ必要はありません。大抵の者はスキルなど持っていないのです。それでも素晴らしい人間は沢山存在します。これからも頑張って生きてくださいね」

「ありがとうございます」


 反応がおかしいラウル。それを見た神父はスキルが授からなかったのだろうと思い励ました。

 ラウルは貴族であるためこれから先、辛い人生だろう。だが、めげずに頑張って欲しい。そう思いながら。


「ラウル……気にすることはない。俺もリンダもスキル無しだ。だから――」

「やはり貴様の息子は無能であったか!」

「そのようですね! 父上!」

『ハハハハハ』


 ラウルを馬鹿にし嘲笑うベルフォード子爵親子。あまりのことに、トマスは殺気を振りまいてしまう。その圧に2人は勿論、近くにいたラウルまでビビってしまう。


 トマスは自分の失態に気付きベルフォード子爵と目を合わせるが、子爵親子は怯えながら神殿を後にする。


 次にラウルへ目を合わせた。


「さっきはすまんな。つい冒険者時代の時が出てしまった」

「いや、気にしてないよ! それよりもさっきの圧みたいなやつ! 俺にもできるようになるかな?!」

「お、おう。できるようになるさ。俺たちの息子なんだから」

「うん!」

「よし、帰ろうか」


(うひょー! かっけぇぜ親父!)


 ラウルは興奮のあまり口調が崩れたが、気にする様子は見当たらない。


 その後、ラウルたちは自宅へと帰った。

 丁度夕食の時間であったためそのまま食卓へと向かうとそこには、普段とは違い豪華な料理が並んでいた。


「おかえりなさい。二人とも」

「ああ。今帰った。それでラウルなんだが……」

「授からなかったのでしょう?」

「そうなんだが……」

「あら? もしかしてスキルが無い息子を放り出そうと考えていると思ってた?」

「そんなことはない! 俺はお前を信用している!」

「はいはい」


 リンダはラウルを抱え優しく告げる。


「気にする必要は無いからね」

「……。はい、お母様」

「それじゃ、食事にしましょ」


 そう言うとラウルを席に座らせて食事を取る。いつも以上に美味しい食事だったがラウルの頭の中には、先程のスキル鑑定の結果だけがあった。


(お母様、お父様。それにセバスチャン。俺はスキルを授かってるんだ。それも魔法さ)


 そう言いながら3人を見つめる。楽しそうに会話する2人とそれを見守るセバスチャン。ラウルは、ばれないように頭を抱えながら心の中で叫ぶ。


(ああ。そうさ魔法は授かったさ。でも…………。どうして<死霊魔法>なんだよぉおおおお!!! 禁忌魔法だぞぉおおお!!!)


 禁忌魔法。それを持つだけで指名手配されるスキル。冒涜的な能力であり、人類が持つべきではない代物。


 その危険性については知っているし、仮に禁忌魔法の使い手だとバレた時、どのような扱いを受けるのかも知っている。

 

 だからこそラウルは……。


(どぉおおおすんのぉおおお!!! これ、どうすればぃいいのおおお!!!)


 ただ今は、心の中で叫ぶしかなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る