第12話

「団長」

「姐さん」


 心配するような声が周りから聞こえる。

 レクスが去ったあと、レベッカの様子を窺うように、傭兵達は彼女を取り囲むように集まっていた。

 敗北を喫した傭兵団の団長は暫く震えていた様子だが、


「あの野郎……ッ!」

 

 彼女は、怒りに任せて地面に突き刺さった剣を蹴り飛ばす。


「レベッカ……」


 ガストンが少し心配そうにレベッカに話しかける。


「おやっさん、アイツはやばい……」

「そうじゃな」


 深刻そうな顔のガストン。


「レクスは危険だ……」

「……ああ」

「……あいつは過ぎた力を持っている」

「儂もそう思う」

「誰かが、なんとかしないと……」

「そうじゃな……」


 レベッカとガストンはそう言うと、頷きあった。




 そんな、残された者たちの様子などいざ知らず。

 レクスはミリアムを連れて、訓練場を出て、公爵邸の廊下を歩いていた。

 その足取りはとても軽く、上機嫌なのが窺える。


「見たかミリアムよ……ッ!」

「はい……」

「どうだ? あいつらにも俺の凄さが分かっただろう?」

「……そうでしょうね……」


 少し、曖昧に答えるミリアム。

 しかし、最後のアレをやらなきゃいいのに、と切実に思っていた。


「はははッ! お前にも俺の格好良さが分かったか?」


 高笑いを上げたレクスは問いかける。


「……まぁ、少しは……」


 思わず本音が漏れるミリアム。

 しかし、その一言にピクリとレクスは反応し、立ち止まる。

 そして、


「少しは……だと?」


 曖昧な回答をしたミリアムの事を見るレクス。


「あ……い、いえ……」


 その視線に、ミリアムは少し怖気づいた。

 少し気が抜けていた。

 何か朝から様子が変わった様子だが、彼は非常に気難しい性格をしている。

 選ぶ言葉を間違えれば自分の身が危うい。

 思わず、失言だったのか、と恐怖を感じるが――。


「……ふっまぁ、いいさ……」


 前髪をかきあげるレクス。


「え?」


 レクスはやれやれと少し呆れた様子を見せるが、苛立った様子さえ見せなかった。


「今はな……。そう今はまだな……。ああ……そうだ、まだまだ、これからさ……」


 そう言ってほくそ笑むレクス。


(この人――、やっぱりなんか変わった……)


 そんなレクスの様子をミリアムは少し不思議そうに見つめた。




 その日の夜。

 レクスは自分の部屋のベッドに寝転がって考えていた。

 あの衆目の面前で、大番狂わせを演じた事を思い出すと神経が昂って仕方がない。

 その口元に笑みが浮かぶのを抑えられない。


「やれるじゃないか……」

 

 相手は、昨日大敗を喫した相手。

 そして、【ブレイヴ・ヒストリア】の世界では最強の呼び声高いキャラクター。

 そんな彼女を相手にすることは、柄にもなく緊張していたようだ。

 その達成感と解放感と勝利の余韻に今は酔っていた。


「これからどうする?」


 天井に向かって問いかける。

 レベッカとの再戦を終えた後、レクスは様々な調べものに時間を使った。

 やはり、この世界は【ブレイヴ・ヒストリア】と非常に酷似した世界だと分かった。


「残りの人生、いや……俺の新しい人生……。安定な生活を送るか……?」


 ストーリー通りの道を辿らなければサセックス家を継いで安定した人生を送る事はできるだろう。

 黒幕と言える教団ですら、脅威とは成り得ないようにも思えた。


「だが、そんなのも退屈だ……」


 犯罪者鈴木守という人生は安定な人生と言うものに、意味を見いだせなかった。

 彼はいつも刺激を求めていた。


「安定した刺激の無い人生なんて……気が狂いそうになる……」


 そんなことをいつも考え、常にスリルを達成感を求めて生きていた。


「そういえば、俺の本当にやりたい事はなんだ……? いや……なんだったけか……?」


 そんな事を考えていると、気づけば、レクスは深い眠りの中に落ちて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る