異世界モブおじさん〜今日も異世界をのんびり配信中〜

双葉鳴

第1話 モブおじ、新たな世界に踏み入る

「ヨシ、今日の配信もなかなかの同接数だったな」


パソコンの中には生放送の配信画面。

草原の中で一人佇む俺と、木造の城の景色がある。

タイトルは異世界でお城作ってみた。


異世界で当たりスキルを得て無双するお話はあるが、じゃあ追い出された奴らはどうやって暮らしているのかっていうところが俺のメインターゲット層だったりする。

要は誰かの無双を羨む、嫉妬に駆られる層の救済番組を制作しているのだ。


「あっくん、ご飯できたよー」

「あいよ」


愛しの妻からの呼びかけに、急いで俺は階段を降りていく。


「どうしたの、今日はごちそうじゃん」

「へへー、今日はなんの日だか覚えてる?」

「え、なんかの記念日だっけ?」

「え……本当に覚えてないの?」


奥さんの表情が凍りついた。

待て、ちょっと待て。

本当になんの日か思い出せない。

ここ最近配信に時間を奪われているからなぁ。


「だなんて、嘘。本当は特に何もない日でしたー」

「なぁんだ。またてっきり美玲さんの付き合ってから2ヶ月目記念日の派生バージョンかと思っちゃった」

「何それ〜」


うちの奥さんはサプライズが大好き。

なので付き合ったことから一週間記念日やら、1ヶ月記念日やら。

何かとイベントを用意してお祝いしてくれるのだ。

イベントと縁のない俺にとっては毎日が何かの記念日。


冴えない男子高校生だった俺には勿体無い奥さんだよ。

もう付き合って400年は経つもんな。


俺は高校時代に異世界に連れて行かれ、そこでエルフに進化していた。

エルフに進化したのは俺だけじゃないんだが、まぁ一日をのんべんだらりと過ごしているよ。


しかし、まぁここ最近本当に多いのよ。

こちらの事情を一歳無視した召喚が。

最初の頃は冴えない自分にもチャンスが? みたいに思ったもんだが、ことごとくモブ主人公の役割を引いてみ? もういいからってなるのは俺だけじゃないはずだ。


「おとうたん、おかりなしゃい」

「スバルも元気だったかー?」

「うん」


ホムンクルスのスバルは、俺たちエルフには欠かせない、成長しない人間だ。

親友の下野夫妻の作品で、なかなか子供ができないエルフ夫婦の悩みをずばっと解決してくれる代物。


「スバル、エルフ小学校はもう慣れた?」

「みんな仲良くしてくれるよ」

「よかったな」

「うん」


可愛い。これで男なのが惜しいくらいの可愛らしさだ。

ホムンクルスなので生殖機能は持ち合わせていないものの、シンボルはくっついてる。一応性差をつけたのは、俺たちエルフが可愛がるための措置である。


男と女では着飾る服装からして違うからな。

うちが男の子を選んだのは、単純に俺が仕事に夢中で奥さんをほったらかしにするからと言う兼ね合いもあった。

家に子供がいれば早く帰ってくれるのではないか?

そんな目論見である。


女の子でも俺は喜ぶが、それについては俺がえっちな目を向けるかもと言う懸念があったらしい。なんで俺そこまで信用がないの?

だなんて思いながら仕事の話も流して伝える。


「そういえば今やってる配信、ようやく登録100万人届きそう」

「え、すごいじゃん」

「スキル『木工細工』だけで立身出世を図るって企画が良かったのかも」

「当たりスキルで無双乱立が多すぎては食傷気味だもんねー」

「俺の授かるスキルのことごとくがハズレだからな」

「でもあっくんだからこそ磨き上げることができるって信じてるよ?」

「美玲さん」

「あっくん……」


俺は感極まってその気になり、息子の前でイチャイチャしようとした瞬間、見知らぬ土地に呼び出されていた。


勘弁してくれよ、スイッチ入った直後に絶望に突き落とすのは。

股間が準備万端なのを、すごい不審な目で一緒に呼び出された高校生に見られちゃったじゃんよ。


「おっさん、きもいぜあんた?」


初対面から失礼なやつである。

どうせ俺はモブ顔だよ、ちくしょう。

既婚者だって言っても誰も信用してくれねーし。

やっぱり俺が童顔だからか?

エルフだから年齢重ねても見た目変わらないからなー。


今は人間用のつけ耳とカツラ、アイコンタクトでバッチリ人間に化けてる。

そうでもしないと、異世界の人間もうるさくてさ。

エルフを神聖視してくれる人はいいけど、基本その力を悪用する奴らばっかりでげんなりしてんだよね。

もうやだ、この殺伐とした世界。


「うるさい。こっちにも事情があんだよ。こんな状態で呼び出されてすごい迷惑してるんだ」

「はいはい、非モテ乙」

「ちょっとケンイチやめときなさいよ。あれは根に持つタイプよ」


一緒にいた女子高生が、男子高校生の耳を引っ張り上げる。

さりげに俺のことをディスってくる。

君も大概だよねぇ?


「何すんだよアキハ」

「すいません、こいつ世間知らずで」

「いや、別に構わないよ。君も俺と一緒でこの世界に巻き込まれた口だろう?」

「おじさんはここがどこか知っているんですか?」


男子高校生の方は、異世界と認識していつつも、やはり女の子は現実的だ。

見慣れぬ世界を前に不安な表情を見せないようにしつつも内心不安で仕方ないのだろう。


「いや、初めて見る世界だ。それと、詳しい話はあちらの方がしてくれるみたいだ」

「わかるんですか?」

「俺、こういうのしょっちゅうだから」

「おっさん、あんまし知ったかすんのはダサいぜ?」


男子高校生はポケットに両手を突っ込んで煽り散らかしてくる。

単純にそう言う性格か。はたまたいち早く何かに気がついての驕り高ぶりか。

まぁ問題ない。

本当にこう言うのは慣れっこなのだ。


俺がこの400年で何回この手の傍迷惑な奴らの理不尽に付き合わされてきたと思っているんだ。

大人を舐めるなよ、小僧。


まぁ未だに高校生気分な大人も俺以外そうそういないけどな。


お相手の話はこうだ。

この世界には未曾有の危機が訪れている。

異世界の勇者を召喚し、その力をこの国にお貸し与えくださいと言うものだ。

ほんと、こう言うの好きだねぇ。

400年前から変わらない常套句だよ。


それでもすっかりその気になっちゃってる高校生。

騙されてるって可能性もあるのに、鼻息荒くして答えてら。

何が「俺たちに任せてください」だよ、ナチュラルに俺を巻き込まんでくれ。


その間、俺は居心地悪そうに佇んでいる。

なぜかって?

さっきトイレ行き損ねたんだよね。

話がいつ終わるのかなって、そう言う心配。


まぁ向こうは自分優先でこっちに構わず話し続けてるんだけどさ。


そこで、ようやくスキルチェック。

国としては一大イベントみたいにして場を盛り上げる。

物語の重要な要素だもんな。

俺としては今度はどんなハズレスキルが来るのか不安でいっぱいだよ。


「さすが勇者様です『竜言語』『上位騎乗』『全武具装備可』『雷鳴魔法』『癒しの手』をお持ちなのは貴方様が初めてですよ?」


お姫様は自分のことのように喜んでいる。

そしてもう一人の女子高生もまたすごい。

こちらも負けず劣らずのスキルの数だ。


「お連れのお嬢様もさすが勇者様の伴侶に相応しい才能をお持ちです『上級回復』『初級蘇生』『状態異常回復』『MP自然回復』『結界魔法』『錬金』などをお持ちのお方を私は知りません!」


本当に盛り上げ上手だ。

しかし、その瞳の奥は皮算用をしているのがわかるくらいイビツに歪んでいた。

まぁ凄い以前に便利って言葉がちらつくもんな。

わかるよ。俺だってそう思うもん。


「そして最後に貴方ですね」

「その前にトイレ」


俺は王女様に断りを入れてから現実世界に戻って用を足した。

その後食事に戻って温めなおした食事に箸をつける。


「あっくん、また転移?」

「それ。トイレタイムだって言って抜けてきちゃった」

「最近多いよねー」

「異世界が増えすぎても困るんだよな」

「転移ミスとか?」

「オート設定だからそれはないんだけど、どこがどう言う場所だったか俺がよく覚えてないとかかな。説明する時にさ、うっかり忘れちまうんだ」

「あー、似たような世界いっぱいあるもんね」


それそれ。


「ご馳走様。んじゃ、また俺そこの世界に戻って続きしてくるわ」

「うん、いってらっしゃい。いつ頃戻って来れそう?」

「まぁ軽くチェックもしたいから10日くらい開けるかな?」

「じゃあお義父さんと義母さんにもそう伝えておくね」

「いつも悪いね」

「おとうたん、お仕事頑張って」

「おう、スバルも学校頑張れよ」


息子の頭を撫でて、俺は稼ぐための仕事をしに再び異世界に戻った。

俺のスキルがしょぼいのは分かり切ってるから、どうせならそれを配信のネタにしようと思ってる。

そう言うのをかれこれ数百年続けてるからな。


「わり、でかいので苦戦しちゃった」

「あなた、一体どうやってここから出て」

「その前にさ、一つ大丈夫?」

「いったい何を」


俺はきょとんとする王女様を前に、配信用のカメラを回した。

親友の作ってくれた異世界でも元の世界と通信できるカメラで今日も配信開始。

さぁ、お待ちかねのスキルチェックと行こうか!

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