遥君の恋人

@yuzunoka

第1話


12月の、寒い日だった。


「あ、ひょうだ!」

「違うよ。これはあられ。」

「雪だったら良かったのにね。」




駅を出て駅前のバス乗場方面に向かう途中、


女子高生たちは嬉しそうに

手のひらで霰を受けながら話し始めた。


「クリスマスの駅前イルミネーション、彼氏と見にくるんだ。楽しみ。」

「わかるー。これで雪だったら映えるよね♡」


アスファルトに転がっては溶けてシミを作る

霰を見ながら憂鬱な気分でため息をついた私は、カバンから折り畳み傘を出して開くと、霰がポツポツと傘に当たる音を聴きながら、目の前の信号が赤から青に変わるのを待って、横断歩道を渡った先にある花壇の前に立った。


"雪だったら良いのに"


なんて思わなくなったのはいつからだろう。

わたしにもそんな頃はあった。



大学を出て、就職して、普通に一生懸命働いてたらいつのまにか29歳。


別に枯れてるわけじゃ無い。

好きな人はいる。


でも、彼は私に振り向く事も

気持ちに気づくことも多分、無い。


だって彼は…


「美織!ごめん。待たせちゃった?」


「待ってないよ。今きたところ。」


振り向くとそこには、待合せしていた同僚の鍵山遥が鼻頭を赤く染めて立っていた。


「雪だったら良かったのにね。」


そう言って笑顔を見せた鍵山遥はリップを取りだして唇に塗った。


肌は色白、カラコンを入れたみたいなハニーブラウンの瞳。癒やし系のすっきりとした甘いタレ目が魅力的な塩顔で、大人の余裕と色気を漂わせるふわふわした雰囲気。


誰から見てもイケメンの鍵山遥は、そこら辺の女ワタシよりもずっと女子力が高い。


「美織。駅前イルミネーションやるって知ってた?」

「あー。うん。」


"白銀の恋人達"がテーマのイルミネーションは、駅前の銀杏並木すべてにホワイトカラーのソーラーイルミネーションライトがつけられて

、その先の噴水にあるカラフルな光を纏ったクリスマスツリーを一段と美しく魅せる。


私とは縁のない、恋人達のためのイベントだ。



「それ、僕と行かない?」


「え?」


「羽尾君も誘って3人でどうかな?」


「あ…うん。羽尾ね。いいよ。誘っとく。」


わかってた。

遥が見てるのは私じゃない。

遥が誘いたいのは私じゃない。


同期の、羽尾佑月。

私の元カレだ…って事。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 05:00 予定は変更される可能性があります

遥君の恋人 @yuzunoka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画