第2話

 そしてむかえた放課後。みんながだんだんと帰っていく中、宮本くんはずっとすわって読書をしている。

 わたしは宮本くんがなんの用事があるのかわからなくて、少し居心地が悪くて、もじもじしながら同じように待った。

 たぶん、あの巾着袋に入っているものを見せてくれるんだと思う。だから、人が少なくなるのを待っているんだろうな。もし、いろんな人に見つかって、袋の中身がおもちゃだったら、先生に言いつけられて没収されるかもしれないし。


「結芽、帰ろー!」

「あ、ごめん。今日ちょっと、お母さんが学校で待っててっていってたから、待たなくちゃいけなくて」

「そっか、わかった!」


 うそついてごめんね、花ちゃん。

 しばらくするとみんな帰ってしまって、二人だけになった。

 宮本くんが、本をパタンと閉じる。その音に、少しだけビクッとしてしまった。


「堀川さん」


 呼ばれて顔をあげると、となりの席から、


「誕生日を教えて」


 と言われた。


「えっと、八月十六日だよ」


 すると宮本くんは、自由帳と筆箱をランドセルから出して、計算をはじめた。

 なんの計算だろう。

 なにをやっているのかわからないまま、じーっと計算式を目でおいかける。

 そしてなにかの答えをだした宮本くんは、今度は一枚の下敷きのようなものをとり出した。それには、いろんな模様みたいな絵がたてに、たくさんの数字が横に並んで、ひとつの表になっているのが見えた。

 次に出してきたのは、わたしがひろった巾着袋。宮本くんがそれを逆さにすると、中から出てきたのは、何枚ものカードだった。

 トランプ、ではなさそう。漫画とかでよく見る、タロットカードってやつでもなさそうだ。でも、不思議な絵が描いてあるのは、少しだけ見たことあるタロットカードに似てるかも。

 宮本くんはそのカードの中から二枚を引きぬいて、机に置いて見せてくれた。


「堀川さんは、これとこれ」


 カードには、一枚は全体的に青色で、目と翼みたいなものが描いてあるのがわかった。もう一枚はなんだろう。全体的に赤色で、線があるけど何を表しているのかはわからない。


「こ、これ、なに?」

「マヤ暦っていう、占いなんだ。本当は占いのくくりとはちょっとちがうんだけど」

「占い?」


 宮本くんは、うなずいた。


「これをひろってくれたお礼。おれ、占いできるんだ。それでこの二つのカードは、堀川さんのことをあらわしてる」

「わたしのことがわかる占いなの?」

「そう。青いワシと、赤い地球」

「ワシ? 地球?」


 占いのせんもん用語なんだろうか。まったくピンとこない。

 今のわたしの頭の上には、クエスチョンマークがうかんでいるはずだ。


「例えばさ、つい、あれこれ考えちゃわない? もしこんなことが起きたらどうしよう。これを用意しておかないといけないかな、とか」


 宮本くんの言ったことに、わたしは思い当たることがあった。

 出かけるときに、もしケガをしたらどうしようと思ってバンソーコーを入れたり、足りなかったらいけないからと飲み物を多めに入れたりして、かばんが大きくなりがちだ。


「あるある!」

「あとは、リズム感があるから、体がノリにのれる曲とか好きじゃない?」

「そうだよ! すごい! どうしてわかるの?」


 ダンスはできないけど、リズムにのって体をゆらしたりするのは好き。決まった歌手が好きなことはなくて、自分が好きなリズムの曲ならだれの歌でも聞く。

 わたしはわくわくが止まらなくなってきて、宮本くんに聞いた。


「そういう占いなんだ。母さんに教えてもらった。あとは、前に立って発表したりとか、向いてるよ」

「ええ! それはムリ! 普通に話すのも緊張するのに」


 今も、わくわくが勝ってるけど、実はちょっとだけ緊張してる。


「そう? 話すのって意外とこわくないよ」

「で、でも宮本くん、いつもしずかだよね?」

「二年生の時に転校してきたんだけど、すごく騒がれていやになったんだ。だからだまってる。でも、おれ結構おしゃべりだよ。イベントで占いしたりもするし」

「イベントって?」


 普段しずかな宮本くんから、ポンポンいろんな情報が出てくる。わたしはどれも気になってしまって、あれもこれもとどんどん聞いちゃう。


「古本屋とか、おもちゃ屋とか、ハンドメイドとか、屋台とか。いろんなお店が集まるイベントがたまにあるんだ。それに、母さんと参加してる」

「へえー! 宮本くんってすごいんだね。占いできるのも、かっこいいし! わたし、本で血液型占いとかしかやったことないから、マヤレキ? っていうのも初めて知ったし」


 わたしは、いつもとなりの席で静かに読書をしていた男の子が、急に大人っぽく見えてきてびっくりした。

 尊敬のまなざしで見ていると、宮本くんは首に手を当てて、うつむいた。


「……別にたいしたことないよ」


 そう言って、カードを全部しまって、自由帳も筆箱も一緒にランドセルの中に入れた。

 ほめたから照れたのかな。怒ったんじゃなければいいんだけど……。


「じゃあ、今日は鑑定させてくれてありがとう」


 宮本くんはどこかぎこちないようすで、ぺこりと頭をさげながら、教室を出て行った。


「……行っちゃった」


 おいて行かれた気がして、ぽかん、としてしまった。でも、さっきまでの宮本くんとの会話を思い出すと、たくさんの楽しい気持ちがわきあがってきた。

 まずは、宮本くんといっぱい話せたこと。次に、占いをしてもらったこと。

 占いの本とか、テレビの星座占いランキングとかでしか、身近に占いなんてなかった。それが今日、目の前でわたしのことを占ってもらえたんだと思うと、だいぶん遅れてだけど、特別なことに思えてきた。


「明日も話してくれるかなあ」


 そして、宮本くんと少しだけ仲良くなれた気がして、うれしかった。

 帰る準備はしていたので、ランドセルを背負い、鼻歌をうたったりなんてしながら下校したのだった。

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