ひみつの恋占い

第1話

「じゃあ、出席番号がとなり同士の人とペアを組んで。小テストの答え合わせをします」

 

 先生に言われて、わたしはとなりの席を見た。


「あ、あの、よろしく」


 となりの男子の宮本湊くんは、こくりとうなずいて、小テストの用紙をわたしてくれる。それと交換して、わたしの小テストもわたした。

 宮本くんは、前髪が長く、表情がよくわからないし、ほとんどしゃべらない男の子だ。小学六年生になって初めてクラスが一緒になった。本をよく読んでいるので読書が好きなのかもしれない。一匹狼って感じかな。

 わたしの吃音を変にからかってきたりしないので、となりが宮本くんでよかったと思っている。

 わたしは物心ついた時から、吃音がある。話す時に、いつもじゃないけど、どもってしまったり、つっかえてしまったりするんだ。ひとりごとの時や、家では大丈夫なんだけど。

 なんてったって、家でのわたしはお調子者なのだ。お笑い番組で、大笑いして、よくお母さんに「結芽、うるさい!」って言われちゃうくらい。

 だから、吃音はすぐ緊張してしまう性格のせいかなって思ってる。緊張が、のどにきちゃうんだ、たぶん。

 どのくらい緊張するのかというと、授業中の発表のとき、先生に当てられても答えられないくらい。

 友達と話すときでも緊張しちゃうから、しゃべる時に、ちょっとえんりょしてしまう。わたしがしゃべると、話のテンポがくずれてしまわないかな、なんて思ったりして。

 丸付けをした宮本くんの小テストは満点だった。宮本湊と書かれた名前の下に、百の数字を赤色で書く。


「答え合わせがおわったら、相手の人に返してね」


 ちょうど丸付けがおわったので、宮本くんのほうを見ると、あっちも終わったみたいだった。


「は、はい」


 宮本くんはぺこっと頭をさげて、わたしのテスト用紙を返してくれた。わたしも満点だった。

 心の中で、ガッツポーズしてよろこぶ。算数はあまり得意じゃなくて、国語のほうが好き。だからちょっと自信がなかったんだけど、よかった。


「じゃあこれで算数の授業は終わります。日直のひと、号令」

「きりつ」


 いっせいにみんなが立ちあがって、ガガガ、と椅子が床とこすれる音がする。


「気をつけ、礼」

「ありがとうございました」


 五分休憩だ。次の授業は音楽。休憩のあいだに、音楽室に移動しなくちゃいけない。


「結菜、一緒に行こー」

「う、うん、ちょっと待って」


 クラスメイトの花ちゃんにさそわれたので、あわてて机の中から、音楽の教科書とリコーダーを出して、準備をする。花ちゃんも、吃音のことをつっこんで聞いてこないから、一緒にいて気が楽。

 教科書を机から出す時に、いきおいをつけすぎて、ほかの教科書がとびだして床におちてしまった。

 花ちゃんがひろってくれて、「はい」とわたしてくれる。


「あ、ありがとう」


 ひろってもらった教科書を机の中にもどしていると、宮本くんが立ちあがった。そのとき、宮本くんのポケットから何かが落ちた。でも、落としものをしたことに気が付かずに、すたすた歩いて行ってしまう。


「あ、」


 呼び止めようとしたんだけど、大きな声をかけられなくて、そのまま背中を見送ってしまう。落としもののところまで行ってひろってみると、手のひらより少したてに長い、紫色の巾着袋だった。


「なあに、それ」

「宮本くんが、落としていったの」

「ふーん」


 みんなのいる時にわたしたら目立ってしまうから、お昼休憩のときにこっそりわたそうと、その巾着袋を自分の服のポケットに入れた。



 お昼休憩になった。給食を食べおわって、読書をしている宮本くんのとなりで、わたしはまだご飯を食べていた。

 男の子って、食べるのが早いよ〜!

 牛乳をちびちび飲みながら、時計を見る。まだ半分は休憩時間がのこっていた。元気な男子の集団はボールを持って外に出ていったし、給食を食べおわった子はみんな好きなようにすごしている。

 ーーあともう少し……。

 ようやく全部食べおわって、食器をワゴンに片付けにいく。歯みがきをしたあと、宮本くんに話しかけにいった。

 ごくり、とつばをのみこんで、頭の中で練習した言葉をいう。


「あ、あの、宮本くん」


 本を読んでいた宮本くんは、顔をあげた。


「こ、これ、ね、落としたの、ひろったから……」


 巾着袋をポケットから出して手のひらに乗せて見せると、宮本くんはあわてたようすで自分のポケットを叩いた。そして、わたしが見せている巾着袋が本当に自分のものだと気づいたらしく、サッと受けとった。


「……だれかに見せた?」

「う、ううん。ひろったときに花ちゃんが見ただけ」

「中見た?」

「見てないよ」


 そういうと、宮本くんはほっとしたようだった。


「そ、それじゃあ」


 休憩がおわる前に、トイレに行っておこうとすると、


「堀川さん」


 と呼び止められた。


「放課後って、時間ある?」

「あ、えっと、あるよ」

「じゃあ、また放課後」

「わ、わかった」


 なんの用事だろう。聞こうと思ったけど、宮本くんは読書にもどっていたので、じゃましたら悪いかなと思って聞けなかった。

 時計を見ると、あと五分で休憩が終わるところだったので、わたしは急いでトイレに行ったのだった。

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