再会は運命未満

清水らくは

運命の再会だったりする?


「時村君、久しぶりだね」

 最初、その声がどこからしているのかわからなかった。彼女に会うことなんて想定していなかったからだ。

「え、ああ。えっと、並木さん。あれ、どうしたの?」

 後ろから、駆け寄ってきた女性。約一年ぶりに合う並木さんは、高校のときよりも幼く見えた。私服姿だからだろうか。

「どうした、って、受けるんでしょ? 宝大ほうだい

「ああ、うん。もちろん」

 今日僕は、宝川たからがわ学院大学を受験する。そのために会場まで向かっているところだ。

「時村君がいるとは思わなかった。浪人してたんだ」

「ははは、そうなんだ。並木さんも?」

「うん」

 そこからは、しばらく沈黙が続いた。高校時代のことをいろいろと思い出してしまった。並木さんもそうなのだろう。

 僕は、並木さんに告白された。びっくりしたし、嬉しかったけれど、断った。

「僕、関西の大学に行くんだ。なかなか会えないだろうし、ごめんね」

「そっかあ」

 並木さんは笑顔のままだった。心の中はわからなかった。

 思い出すと胸が痛くなる。本当は、大学で女の子と毎日のように遊びたい、と思っていたのだ。よこしまな気持ちと、浮気はできないという気持ちと。一瞬でいろいろと考えた結果、断ってしまった。それなのに僕は全ての大学に落ちて、浪人することになってしまった。並木さんも浪人していたのなら、予備校生同士遠距離になることはなかったじゃないか。もったいないことしたなあ、とひどく後悔する。

「並木さんは、他も受けるの?」

「うん。でも、本命はここ」

「そうなんだ。じゃ、今日は大事だね」

「うん」

 大学構内に入った。当たり前だが、受験生がたくさんいる。入学したら同級生になる人たちだろうが、実は僕は別の大学が本命である。

「僕、あっちの試験会場だ」

「私はあっち。じゃあ、バイバイだね。大学でまた会えるかもね!」

 そう言って去っていく並木さんは、しばらく僕に手を振っていた。




 もやもやした気持ちを抱えたまま、僕は試験に挑むことになった。正直彼女はかわいいし、性格もいい。今日会ったことに、運命も感じる。宝大が本命と言っていたから、この大学に入ればまた会える可能性は高いと思う。

 でも、僕の本命は別の大学だ。そこでだって出会いはあるかもしれない。ただ、ないかもしれないのだ。

 正直試験には身が入らなかったが、それでも大失敗した感じはしなかった。昨年全部落ちたことを考えれば、本命でなくともここは絶対に受かっておきたい。受かったと思う。

 帰り道、きょろきょろとあたりを見回す。並木さんにまた会えるかもしれないなんて思ったけれど、そこまで都合のいい話はなかった。



 宝川大学には合格した。よかった、これで浪人生活は終えられる。

 が、他の大学からは不合格のお知らせが届いた。続々届いた。正直すべり止めだと思っていたところも落ちた。

 結局受かったのは2校だけだった。どっちにも本当に行きたかったわけではないのだけれど、宝川大学には行く理由がある。

 並木さんにまた会えるかもしれない。あわよくば付き合えるかもしれない。

 ただ、彼女が受かっていなければ話は別だ。

 僕は意を決して、携帯電話を手に取った。僕から彼女に電話をかけるのは初めてだった。

「あ、時村君。びっくりした」

「ごめんね。この前会ってから気になってさ。どうなったのかなって」

「うん、私受かったよ! 宝大に行くことになった」

「おめでとう」

「時村君は?」

「俺も受かった」

「よかった! 時村君は行くの? 宝大」

 いい感じだ。ここはもう、決まってるだろう、と思った。

「行こうかなと思ってる」

「やったあ! じゃあまた会えるね。みんな受かってよかった」

「え、みんな?」

 二人のことをみんなと言うだろうか。別の友達も受けていたのだろうか。

「うん、彼氏も受かったの」

「へ、へえ。よかったね」

「うん。一緒に頑張ったんだ」

 明るい声だった。彼女はいつだってそうだ。

「じゃあ、今度紹介してね」

「うん!」

「またね」

「ばいばい」

 どうしよっかなあ、行くのやめよっかなあ、と思ったけれど、一度は好きになった人がそんな嘘つきだと並木さんに申し訳ないな、とも思った。

 僕はいつだって中途半端だ。大学に行ったら、治さないといけない。

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