Magic3.柳澤詩乃のチョコレート

第48話

いつもみたいに放課後、帰る小鳩を捕まえようと思ってた下駄箱で。


ホームルームが終わると同時、作って来たチョコレートの入った箱の入れた紙袋をを両手で平行に持ちなるべく傾けないようにしつつも早足で階段を駆け下りて向かった。


スニーカーが置いてあった小鳩の下駄箱。


うん、まだ小鳩は帰ってない。



待ってれば会える…!



ドッ、ドッ、ドッ…

大きくなる心臓の音。


どうしよ、緊張して来た…

落ち着いて、深呼吸して。



もう告うって決めたんだから、今度は絶対伝えるってこのチョコレートに誓ったんだから…!



もう一度大きく息を吸ってゆっくり吐いた。



きっと大丈夫。


大丈夫、伝えられる…っ



「……。」


と心に決めてから5分、10分、15分…


私の前を通って帰っていく人を何人見たか、あきらかに待ち伏せしてるみたいで恥ずかしいんだけど肝心な小鳩は全く来る気配がなかった。 


え、小鳩何してるの?もう帰っちゃった?


ううん、でも靴はあるんだからそんなわけないし。



どこにいるのかな…?



「……。」



それから待ってても全然来なくて、どんどん体が冷えていく。玄関に近い下駄箱は隙間風がひどくて。


「…探しに、行こうかな」


なんとなく、なんとなーく、思ってた。


これだけ来ないってことはたぶん、他に…



そう思うと少し怖くて、だけどもう私も限界なの。



下駄箱から離れて保健室まで向かった。


いつもはノックなんてしないで、すぐドアを開けちゃうんだけど。


今日は丁寧に2回コンコンってドアを叩いた。

はい、って琴ちゃん先生の声が聞こえる。


「失礼しまぁー…」


うるさく鳴る心臓の音、聞こえないフリをしてドアを開ける。


最初に目に入ったのは琴ちゃん先生、にこって笑ってどうしたの?って微笑みかける。



でもその後にね、小鳩の姿が見えたの。



そしたら保健室に入ることもできなくなちゃって。



手には可愛い手提げ袋を持ってたから。



あぁ、そっかそうなんだって。


やっぱり私には無理なんだって。




小鳩の持つチョコレートを見て思ったの。




「…っ」


走って逃げちゃった。


ドアも開けれないまま。


ぎゅって持っていた紙袋を抱きしめて。



見られたかな?


私の顔。


見てたかな。



そんなの気付かなかったかな…





できれば気付かないでっ





「柳澤さん…っ!」


「っ!」


グッと腕を引っ張られた。

無我夢中でその場から離れようとした私の腕を、追いかけてきた小鳩に掴まれた。


「…なんで泣いてるんですか?」


「……。」


……。



えーっと、ここはちょっといいシーンなんじゃないかなって自分でも思ったわけなんだけど?



たった今、私は失意の低下でもう泣きじゃくりたい気分だったの。



だけどね?



正直言うと振り返った瞬間、小鳩の顔見て嬉しく思っちゃった自分もいるど。


でも目の前の小鳩は…



なんでそんなキョトンとしてるの?



「どうかしました?」


通常運転過ぎるよ。


でもそうなんでしょ、そーゆうことなんでしょ。



どうしよう涙の止め方がわからない。



腕を振り払って、持っていた紙袋を小鳩の胸に押し付けた。力を込めて。




「小鳩が好き」




涙で前が見えないけど、見上げる覚悟もないんだけど、こんなチョコレートの渡し方しかできないんだけど。



「好きです、受け取ってください」



きっとこれが私だから。


だからこれでいいの、私は…っ



「!?」



ふと急に手が軽くなった。


小鳩がチョコレートに手を添えたから。


「…?」


そのまま渡っていったチョコレートの行方が気になってゆっくり顔を上げると、紙袋の中を確認した小鳩が箱を取り出していた。


おもむろに、パカッと箱を開けた。



……、あっ!



「あのねっ、これは!」


そうだ、絶対1ミリたりとも傾けちゃいけないはずだったのにここまで走ってきちゃったから…


クッキーで作ったカップから固まらなかったホワイトチョコレートがはみ出て、箱中びっちゃびちゃの無残な姿に。



こんなの渡せない!



そう思ってあわてて返してもらおうとした時、小鳩がひとくち食べた。


「え…」


なんの躊躇もせず口に運んで行ったから、私の方がびっくりしちゃって。


「全然美味しくないですね」


「それはわかってるー!」


やっぱまた泣きそうになった。


「チョコ研入ってどれだけ経ったんですか?こんなに活動してきて、この程度ですか」


「わ、私だって思ってるよ!でもっ、小鳩に聞いたこと生かしてホワイトチョコに牛乳入れたらよりおいしくなるのかなーって考えてそれでっ」


「ホワイトチョコは固まりませんよ」


「え!?そうなの!?」


「比率にもよりますがミルクチョコレートやビターチョコレートと同じ感覚では無理ですね、というかミルクやビターでも固まりにくいですし生クリームのがいいです」


全然知らなかった…

私ほんとに何してたのこの数か月…


「ちなみに牛乳を使う場合、コクも出ないのでバターやマーガリンを加えることが必須です」


「そーなの!?だってチョコレートフォンデュした時は…っ」


「あれはフォンデュですから固めることを想定してないですし、果物を付けることによって味のバランスを取ってますから」


「へぇー…」  


チョコレートってバターとかマーガリンも入ってるんだ、そんなの知らずに部活してたんだ私怖い。


ただ牛乳のがあっさりするってことだけ覚えてて、甘ったるいより小鳩はそっちのがいいかなって思って作っちゃった。


うわっ、恥ずかしい。



何それ超恥ずかしい…!



「まぁでも…」

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