Magic2.ハッピーバレンタイン

第47話

「メッリーーーーーーー!!!ハッピーバレンタイン~~~~~!」


「…そらぴょん、それは年が明けたテンションだよ」


2月14日バレンタイン当日の家庭科室、朝一番にやってきた。


「メリーの上手くできた?どうだった?俺のはできたかなっ??」


いつもの5割増しぐらいの威力を持ったそらぴょんのテンションは朝からはなかなかきつい。

こっちはまだ半分くらいしか頭が冴えてないのに、隣でキャンキャン子犬のように吠えてる。私が冷蔵庫を開ける後ろで、早く自分のを確認したくてしょーがないって感じだ。


「そらぴょんのちゃんとできてるよ」


「わっ、マジ!?ありがと!」


待ちきれないそらぴょんに先に渡してあげた。昨日から冷やしておいた今日のためのチョコレートを。

お皿に並べられた丸いフォルムが可愛いトリュフチョコレートだ。


「おぉー、いい感じだ!」


「おいしそうだね」

  

「メリーにも1個あげようか?」


「いや…、私チョコミントはあんまりだから」


「ねー、俺もあんまりなんだけどー」


なんて言いながら、愛しそうに見てる。


「でも小夜さんが好きって言うから」


すべては森中部長のため、そらぴょんの愛がこもったチョコレート。


「さっ!あとはラッピングするだけ!」


両手でお皿を支えたそらぴょんが調理実習台の方へ移動しようとした時、ガラッとドアが開いた。


こんな朝早く私たち以外に誰…?


「お、おはよう!」


若干甘噛みで入って来たのは森中部長だった。


森中部長と言えば、昨日もいつも通り連絡事項だけ伝えたら帰っちゃって。

基本作るより経営的なポジションだから、チョコ研伝統行事でもスタンス変わらないんだねってそらぴょんと2人でチョコレート作ってた。


そらぴょんは少しだけ寂しそうだったけど、もしかして市販のでもらえるかもしれないし!って無駄にポジティブ発揮してた。


「小夜さーん、おはようございます~!」 


いつもみたいに挨拶するも、すぐに手に持ってる物の存在を思い出してあたふたしちゃって。


「あっ、ちょっと待ってくださいね!今、今ラッピングするんでっ」


1回置くべきか鞄から包装袋出すべきか1人てんやわんやしてるそのそらぴょんの前で森中部長はもじもじしながら恥じらって、なんだからしくない。


「あの、笹原くんっ」


「はい!あ、待ってください!すぐ、すぐ用意するんで!」


そらぴょんの予定では朝準備して午後渡すつもりだったからだいぶ時間狂っちゃって、とりあえず台の上にチョコレートを乗せることにしたらしい。


「これねっ」


「あと1分!あ、30秒でも!」


「作って来たの…!」


「……………………え?」


間!長ッ!間!!


さすがにこの間に冷蔵庫1回閉めた。

そらぴょんの前に差し出されたのは雲が浮かんだ空柄の巾着型の包装袋、渡す手が震えてる。


「あの、初めて作ったから…美味しいかはわかんないんだけど、私も作ってみたくて、笹原くん…マドレーヌ好きって言ってたから!」


「…俺にくれるんですか?」


「うん!恥ずかしくて、昨日一緒には作れなかったんだけど…あ、でも本当味はわかんないよ!一応レシピ通りやったつもりだけど、小鳩くんみたいにはできないし全然っ」

 

「めっちゃおいしいです!!」 


震えてた森中部長の手を両手で掴んだ。


「絶対おいしいです!」


見つめ合って、いい雰囲気で、しまった私完全に出ていくタイミングを失った。  


気配を消せるだけ消してみたけど、物音ひとつ立てられなくない?


この状況…



でも笑い合ってさ、なんかいいなって…


思ったんだよね。



2人の想いがおんなじだから、そんな顔できるんだよね。



いいなぁ、羨ましいなぁ。



私も、渡せたらいいな。


ちゃんと、向き合って。



せっかくがんばって作ったんだもん、チョコレート。




って思ってたんだけどね。




「咲希、ハッピーバレンタイン~」


「私にもくれるんだ」


そらぴょんと森中部長のがいい感じの中、家庭科室の隅っこをお借りしてラッピングして来た。 さっそく教室で会った咲希に出来立てほやほやを渡した。


「好きな人に渡す♡が伝統だから咲希にも!」


「えー、ありがと~」


「あ、でも気を付けて!絶対平行にして持って!1ミリたりとも傾けないで!」


「えぇ!?なんで!?チョコレートだよね!?」


チョコレート…

なんだとは思う一応、材料はチョコレートだし、そこは間違ってない…


だけど。


「全然うまくできなかったの」


「そんな難しいチョコレート挑戦したんだ?」


咲希の席の前、はぁ~~~っと長めの息を吐きながら両手で顔を覆った。座ってる咲希が下から顔を覗き込んでる。


「ホワイトチョコレート固まらなかった…」


「え?」


「カップ型のクッキーにね、チョコレート流し込んで固めようと思ったの。レシピ見たはずなのにカップクッキーパサパサなんだけど、それはいいのもう、予想の範疇だから。いつもミルクチョコだからホワイトがいいなぁって思って、ホワイトチョコで作って上に何かトッピングしようかなって!…昨日から冷やしてたのに全ッ然固まってなくて…」


「へぇ、それは…残念?だね」


昨日の部活からだからざっと計算しても10時間は冷蔵庫の中だった。これで固まらないなんて、絶対おかしい。


「チョコレートって溶かして固めるだけじゃないの?」


「私もそうだと思ってた~!でも小鳩に牛乳とか生クリーム入れた方がいいって言われて、だから…っ!」


「だから?」


「あれ、違うっけ?言ってなかったっけ?言ってたと思うんだけど、なんか自信なくなってきた…」


「え、いいのそれ…?」


チョコレートフォンデュの時牛乳入れてたもん、そうするとあっさりしておいしいって…


でもそーゆう話じゃないっけ?

それだけやたら覚えてるから全部それになっちゃってるのかな…


やばい、これだけチョコ研やってて何も身についてない。


普段どれだけ小鳩任せだったのか如実に表れてる。


「折れた…」


「何が?」


「心が」


「…どんまい」


それでも、私なりにやったつもりではあるの。


だけどいつも何するのにも小鳩に聞いちゃってたし、これはもう怒られる未来しか見えない。  


「でも渡すんでしょ?」


覗き込んだ咲希と目を合わせる。


「…うん」


「がんばってね」


グッと両手でグーを作った咲希が応援してくれる。



今日の放課後、渡すって決めた。


受け取って、もらえるかな。



…あと怒らないでもらえるかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る