第29話
テストが終わればもうすぐ冬休みで、延期になっていた文化祭の打ち上げが今日やっと開催される。
部活がないと小鳩に会うことがなくて、お昼に行ってた保健室もなんとなく行きにくくて疎遠になっていた。
「はぁ~~~~~~~…」
なのにずーーーっと小鳩のこと考えてる私の頭どーなってんの…っ
机に伏せながら声まで出ちゃった、ここ教室なのに。
ホームルームも終わってみんな部活やらなんやらでどんどん帰って行ってるけど。私もこれから部活なんだけど、打ち上げなんだけど。
「詩乃っ、どうしたの?」
それに気付いた咲希が前の席から振り返るように座った。
「めっちゃ声漏れてるよ?」
「…すくって戻して」
「自分で吸い込んで!」
むくっと顔を起こした。おもっきし突っ伏してたから変な顔してたかもしれないけど、まぁいいか咲希だし。
「あ、起きた」
「……。」
「何かあったの?」
「………わかんない」
「え?」
わかんない、自分でもわかんない。
なんでこんなに小鳩のこと考えて頭ぐるぐるさせてるんだろう。なんで…
「咲希、あのね」
「ん?」
「文化祭の日、オージ先輩に告白されたの」
「え!?」
「でも断っちゃった」
「えぇっ!?」
サラッと報告したから咲希が口を押えてとんでもなく驚いてる。
わかる、私でも自分のことなのにその反応するよ。
なんで、そんなこと言っちゃったんだろう。
自分でもわからない。
「…なんで断っちゃったんだろう」
もう一度顔を伏せた。
頭がぐるぐるして心がモヤモヤする。
何度寝てもスッキリしないこの感情は何なの?
なんでこんなに心が重いの?
「それって…、もう詩乃はわかってるんじゃないの?」
「え?」
顔を上げると咲希がくすっと笑ってた。あんなに驚いてたのに今はくすくす笑ってた。
「ちょっと考えたらわかることじゃない?」
「わからないよ!だってずっとオージ先輩のことが好きだったんだよ!あんなに追いかけてたのに、もう二度とないよこんなチャンス!!」
近付きたくて必死だった。
オージ先輩を見るとドキドキして、キラキラした気持ちになって、いつか隣に並びたいって…
思ってたはずなのに。
「…あの気持ちは何だったのかなっていうか。え、こんな切り替え早い?みたいな…私って何なの!?みたいな!」
「詩乃、落ち着いて」
どこからか風が入ってくる。窓は閉まってるのに、すきま風かな。
「そんな軽い気持ちだったのかなっていう自分にもビックリなんだけど」
はぁっと息を吐きながら頬杖を付いた。
自分の意思の薄さにゲンナリしちゃう。
嫌だな、なんか。
どんだけフッ軽なの。
心変わり早すぎ。
「そうかな?私はそうは思わないけど」
「え、そう!?」
「オージ先輩のことが好きだった詩乃だって本当だと思うよ、でもそれ以上に好きな人が現れちゃったってことでしょ?」
「え、待って!私まだそんなことは何も…!」
「だって詩乃は最初から小鳩くんに近付きたくて必死だったよ」
咲希が少し微笑んで私を見る。
自分でもよくわかってないのに、そんな…
「私が…?」
「うん」
私が近付きたいのはオージ先輩だった…
と思うんだけど。
「小鳩くんと話すためにチョコレートトーク仕入れたり」
「それは魔法のチョコレートが欲しくて」
「小鳩くんとキッカケ作るためにマドレーヌ買ってきたり」
「それも魔法のチョコレートが欲しくて」
「小鳩くんに会いに保健室まで行ってたじゃん」
「だから、それも…っ」
「全部小鳩くんじゃない?」
小鳩のためっていうか…
小鳩が作る魔法のチョコレートが欲しかっただけなんだけど。
どんな手を使ってでも手に入れてやろうっていろんなこと考えて小鳩に近付いてた。
だからそれが別にそーゆう意味じゃなくて…
「小鳩くんのこと知ろうとしてたよ」
そんなつもりは全然なかったんだけどな。
「知っていくうちに好きになるってよくあることじゃん」
じゃあいつからそうだったの?
「オージ先輩の時は見てるだけだったけど、今の詩乃の方が私は納得できるよ」
「…オージ先輩の時はキャーキャー騒いでるだけって思われてた?」
「そんなこともないけど、好きのカタチは人それぞれだし。でも今の方が、恋してるって顔してる」
微笑む咲希の前髪が風で揺れてる。
そんなセリフ、いざ聞いたらぽっと頬が熱くなる。
「さすが…、彼氏持ちは言うことが違いますね」
「まぁね!詩乃よりは経験あるからね!」
「知ってるしー!私なんかひよっこだし!」
「嘘嘘、みんな恋したら悩むことばっかなんだよ」
ずっと悩んでる気でいたけど、思えばずっと楽しかった。
オージ先輩に近付きたいって言いながら本当は遠くから見てるだけで満足してたのかもしれない。
告白したいって思いながら、オージ先輩を知ろうとする努力なんてしてたかな。
たぶん、してなかったよね。
じゃあ今は…
「今日チョコ研打ち上げなんでしょ?早く行きなよ」
「うん…」
悩んでばっかりだ。
「行ってくる!」
リュックを背負って家庭科室まで走った。
もうみんな揃ってるかな?
打ち上げ始まってないかな?
さっきまで行くのが重かったのに、急に早く行きたくなっちゃって、本当に切り替え早いな自分って思った。
小鳩も来てるかな?
久しぶりに顔見るかも。
あの時…、森中部長に話があるって言った小鳩を止めたくて咄嗟に割り込んだ。
一瞬話は逸れたけど、そんなのその場しのぎだ。
それで乗り切れたわけじゃない。
その話を聞かなきゃいけない時は来るから。
聞いたら、私はどうしたらいいんだろう…
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