第30話
「あ、メリー!遅いよ~!」
「ごめん、ちょっと…あれしてて」
「見て見て、ゆいぴーが作ってきてくれたんだって!」
そらぴょんに手招きされ、呼ばれるまま調理実習台の前に立つと美味しそうなお菓子たちがキレイにお皿に盛り付けられていた。
フィナンシェにクッキーに、ロールケーキ…!?
そんなのまで作れるの、小鳩は…!?
「テストも終わったんで、時間ができまして…いろいろ作ってみました」
「ゆいぴー最高!うれぴよ~~~~!」
その中に、チョコレートはひとつもなかったけど。
チョコレートは絶対に作りたくないんだ。
そんな意思を感じた。
「俺生クリームも超好きなんだよね♡生クリームに溺れたいもん♡」
「…気持ち悪いですね」
「ゆいぴー眉毛!そんな寄せない!メリーは?生クリーム!」
「私は…溺れたい」
「ほらー!やっぱそうじゃん~!」
いつもと変わらない小鳩で、その眉間にしわを寄せた顔だって何度見たかな。
でも変なの、そんな姿もチカチカ見えちゃって。
「お待たせ~!みんな揃ってるー??」
2リットルのジュースとお茶のペットボトルを抱えた森中部長が元気よく家庭科室へ入ってきた。
森中部長の上機嫌とは逆にそらぴょんは大人しくなったけど、まだ上手く喋れないんだ一緒に文化祭だってしたのに。
…そんな気持ちも、よくわかっちゃうんだけど。
なんならもっとわかるようになった。
好きだって自覚すると今までできてたこともできなくなるよね。
「じゃあ始めようっか!チョコ研文化祭お疲れ様会~!!」
家庭科室にあったグラスにジュースを注いで、みんなでカンパーイ!と高々に声を上げた。たぶんほとんど森中部長の声だったけど。
作ってきてくれたお菓子を取り分ける、こんな時もテキパキと小鳩は動いていて本当いつだって無駄がないんだもん。
「メリー今日はしあわせだね、ただ甘いものを食べるだけの部活…!」
「うん…!いや、だいたいそうな気はするけど私とそらぴょんって」
「え~なんか気分が違くない?」
「気分…」
違う…かな?
お菓子食べるのにそんな気分がどうのとか…
そりゃ小鳩のことを見る私の気持ちは?
ちょっとは変わったかもしれないけど…
いつもお菓子食べてることには変わりないんだから文化祭の前と後、特に何か変わったとか…
「森中先輩、俺がやります!」
空になったグラスにお茶を注ごうとしてた森中部長の元に、ハイッと右手を上げすぐに2リットルのペットボトルをサッと受け取った。
さぁどうぞ、って紳士的にお茶を注いであげてにこっと笑ったりなんかして…
え?
全然違うじゃん…
そらぴょん別人じゃん!
は、何それ!?
前みたく大人しくはなったけど(さすがにまだ森中部長にやっぴーとか言わないし)、大人しくなったんじゃなくて大人になったって感じ!?
それにありがとうって森中部長も微笑んでる。
え、えぇーーーーーーーっ!
私だけじゃない、そらぴょんも変わってるんだ!そらぴょん、進んでるんだ…!!
がんばってるんだね。
少しずつかもしれないけど、そーゆうのって大事だよね。
あ、なんか嬉しいかも。
そらぴょんが嬉しそうで私も………。
………。
……え、待って。
あれ、待って???
そうだ、小鳩の好きな人…!
森中部長、じゃないのかな?
違うのかな?
本人から聞いたわけじゃないけど、なんとなく…
そうかと思ってた。
小鳩は森中部長のことが好きなんじゃないかって。
「……。」
やばい、急にぎゅーって心臓を掴まれたみたい。
そらぴょんが森中部長と笑ってると嬉しいのに、小鳩が森中部長と笑ってたことを思い出すと苦しい…
「柳澤さん?」
「わっ、小鳩!」
「…そうですけど」
「だよね!ごめんっ、何!?」
「ロールケーキ好きですか?取り分けたら1個余っちゃったので、もう一つ召し上がりますか?」
「え、いいの!?欲しい!」
つい食いしん坊発動しちゃって、自分のお皿を差し出す私にくすっと笑う小鳩。
小鳩だって変わったって思う。
でも変わったんじゃなくて、小鳩は元々そーゆう人で私が知らなかっただけかもしれない。
私より全然森中部長のが小鳩のこと…
「あー、メリーずるい~!」
「え、ずるくないよ!小鳩がくれたんだもん!」
「俺も欲しい!半分ちょーだいよ!」
「半分は多いよ!」
「…ロールケーキごときで言い合うのやめてもらえませんか」
「…いいよ、じゃあ半分あげる!」
しょーがないなぁと口を尖らせながら、フォークで半分に切ったロールケーキをそらぴょんのお皿に乗せてあげた。やったねっとペロッと舌を出して喜んだそらぴょんは、そのまま大きな一口で半分のロールケーキを食べた。
「ひとくち大きっ」
「うまっ♡」
いろんな意味で嬉しそう。やっとハッピーでやっぴーなそらぴょんが帰ってきた。
それは私としても好きなそらぴょんだから、まぁロールケーキ半分も認めよう。
そんなにこやかにケーキを頬張るそらぴょんを見て、森中部長もほんわかと笑顔を見せてるし。
「笹原くんと柳澤ちゃんって仲良いよね?実は付き合ってたりするの?」
ゲホッゴホッ え、そんなほわっと聞く!?
てゆーかそんな風に見えました!?
思わずむせちゃった、私もそらぴょんも。
「つ、付き合ってないです!!!」
今までで1番大きな声だった。
そらぴょんが森中部長の前で発した言葉の中で。それほど即座に訂正したかったんだと思う。
「全然、メリーとは!あ、仲はいいですけど!でもそんな感じじゃなくて、全然!マジで全く一切付き合ってないです!!」
ちょっと文法わかんないけど、必死に否定してることだけは伝わったよそらぴょん。
「えー、そんな言い方するの怪しい~!うちの部は特に恋愛禁止とかないよ?付き合っててもいいんだよ」
ふふふっと笑って、お茶を飲んだ。
森中部長からしたらそらぴょんの必死さが変な方向に感じちゃったのかな、私に気遣ってるとか。でも実際は森中部長に気使った発言なのに。
「付き合いませんよ、メリーとは!」
うん、そうだけどちょっと引っかかるなその言い方は!
「ちっとも付き合いと思ってません!」
私も思ってないけど、でもそれ隣で言われてる私の身にもなって!
「そんなこと全然…っ」
「あ、そうなの?ごめん、私余計なこと言っちゃってっ」
止まらないそらぴょんに森中部長も困ってる。
あ、どうしよう…
なんかおかしな空気になってるかもっ、私も虚しい立場になって来たし!
「落ち着いてそらぴょ…っ」
この場をどうにかしなきゃって止めようと思ったのに、きゅっとそらぴょんが両手グーにしてシャツの裾を掴んだから。
力が入る、そらぴょんの手に体に瞳に。
「俺が付き合いたいのは森中先輩ですから!!!」
「「「………。」」」
数秒の沈黙。
声にも出なかった。出せなかった。
ただひたすら心の中で叫んでた。
えーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!
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