第13話

ぼぉーっとしてたらあっという間だった午後の授業が終わる。

お昼にお菓子いっぱい食べちゃったから超眠かったなぁ。


でも気分はすこぶる良くてホームルームが終わってあとは帰るだけなのになんだかそわそわしてた。


「咲希、今日は光介くん待ってるの?」


「うん、待ってようかなって思う」


「そっか!」


いつもはお昼休みに会いに行ってる咲希が今日は行ってなかったからどうしたのかなって思ってたけど帰りは一緒なんだ、じゃあよかった。


大丈夫そう…だよね、たぶん。


「じゃあ、私帰るね!ばいばいっ」


手を振って教室を出る。


今日は特にすることもないし、そのまま帰ろうかな~ 

早く帰ってテレビでも見て明日の話題に備えようかな、困った時に何か話せるネタでも仕込んでおくか。


なんて思いながら、廊下を歩いていると遠くに小鳩の姿を見付けた。きっと小鳩は今から部活に向かうところ。


「小鳩ー!お疲れ様~!!」


今日はチョコ研にお邪魔するつもりはなかったけど、ばいばいのあいさつでもしようかと駆け寄った。


「……。」


案の定無視だったけど、未だ心を開いてはくれてないみたい。


「今から部活でしょ?今日は何するの?」


「あなたに関係ないです」


「ないけど、コミュニケーションで聞いただけだよ」


そしてかなり手厳しい。


「あ、小鳩ってお菓子は好き?甘いものは嫌いなんでしょ、例えばスナック系とかはどうなの?」


「…それ答えなきゃいけませんか?」


「いや、うん…参考に?」


なんだろう、今日の小鳩はいつもとちょっと違う気がする。

いつもツンケンはしてるんだけど、なんか…真っ直ぐ前を向いてちっともブレない姿勢と視線からいつもより圧倒されるような感覚に陥った。


何かあったのかな…?


「せっかくだからね、明日は小鳩の好きなお菓子も持って行こうかなって思って!」


「別に必要ないです、そんなの」


「そう?あったら嬉しいかなって思ったんだけど」


まだ一度もこっちも見てくれない。

いつもなら睨まれてるだけだけど、こっちを見てくれるんだけどな。


「あーゆうの楽しくない?みんなでワイワイしてるのって、みんなでご飯食べるとおいしいって言うの本当だよね!喋っちゃって全然ご飯は進まないけど楽しいし、だから小鳩もっ」


「もういい加減にしてくださいっ!!!」


ガンッ ってカミナリでも落ちたのかと思った。


廊下中に響き渡った初めて聞いた、小鳩の叫び。


「迷惑なんですよ!毎日毎日何なんですか!そこまでしてチョコレートが欲しいですか!?」


「小鳩、あのっ」


「じゃあ作りますよ!作ったらもうつきまとうのやめてもらえますかっ!!」


「…っ」


吐き出すように怒号を飛ばして、ハァハァと大きく呼吸をしていた。肩を上下に揺らして、苦しそうに。


「…もうやめてください。もう金輪際関わらないでもらえますか、僕はあなたと関わりたくないんで」


そんな風に声を張り上げる小鳩は初めてで、いつもより低い声が胸に刺さる。


それでもこっちを見てはくれなかった。


ただ俯いて、顔は見せてくれなかった。


「あのね…、私っ」


顔を見上げる、だけど隠すみたいに小鳩が右手で顔を覆ったから。


震えてた、微かに。


右手が震えていた。



次の瞬間、ふらっと小鳩の髪が揺れた。


その揺れは不自然で一瞬何が起きたのかよくわからなかった。



「小鳩?」



スッと私の視界から小鳩の姿が消えた。


見えなくなった小鳩の姿に目を見開いた。


バターンッ、と大きな音を立てながら前に倒れ込んだから。


「小鳩っ!!??」

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