Magic4.手に入れたい魔法のチョコレート
第12話
「咲希って自分で作ってるの!?」
「うん、最近ね。ちょこちょこ始めたの」
「えーーーっ、咲希ぽすごいね!メリーのお母さんは料理上手だね!」
「なんで私はお母さんが作った前提に言うの!?そうだけど!」
やんややんやと今日も楽しくお弁当の時間、みんなで1つのテーブルを囲って食べるお弁当はおいしいし楽しい。
「……。」
そう1人を除いては。
しゃんと背筋を伸ばし、キレイに箸を持つ手も様になってるのに、眉間のしわだけは頂けないと思う。
だからせっかく顔がいいのにもっと意識してそこ!
「…なんで皆さんここにいるんですか?」
ジロッとこっちを見る視線からイライラ感が伝わって来る。ほんといい顔が台無し。
「だってゆいぴーいっつもぼっち飯なんでしょ?みんなで食べた方がよくなーい?」
「…っ」
やば、そらぴょんやばっ。
小鳩の問いかけに、とりあえず何か言わなきゃって口を開いてはみたけどいい言い訳が見付からなくてただ口をぱかって開けてる私の前でそんな鈍器で殴ったようなセリフよく言えたな!
ほら、今にもここから追い出されそうだよ!小鳩イラっとしてるよ!!
「あれ?今日は小鳩くんお友達いっぱいね」
「友達じゃっ」
琴ちゃん先生…!
ナイスタイミング…!!
琴ちゃん先生が職員室から戻って来た、その瞬間空気が変わる。琴ちゃん先生の柔らかい空気に包まれて、ふわふわした空気が流れた。
「でもここ保健室だからね!」
クーラー完備でテーブルもある最高の空間、普段はケガとか体調不良とかじゃないと使えない。小鳩がいることを理由に堂々とランチタイムしてた。
私が咲希もそらぴょんも誘ったんだよね、怒られるかな…!?
「他の子たちには内緒よ」
ピンと立てた人差し指を口元に持ってきて私たちににこっと笑った。
琴ちゃん先生なんてわかる先生…!
だからみんなに好かれて、人気なんだよね。いつだって味方してくれるから。
「私も混ぜてよ~、お弁当だから」
「混ざってよ混ざってよ!琴ちゃん先生も一緒に食べよ!」
ひとつ余っていたイスを差し出して、私と小鳩が向かい合う間のお誕生日席に琴ちゃん先生を呼んだ。
「ゆいぴーいつもここで食べてるの?」
「まぁ…」
「小鳩は保健室常習犯だから!」
「ただの頭痛持ちですけどっ」
神経質そうな小鳩は頭痛持ちって聞いてなんだかしっくり来てた。それが理由で自由に保健室に出入りしてるらしいし、ここでお弁当食べてるのもマストっぽいんだよね。
「みんなは仲良いの?」
いかにも手作りな色鮮やかなお弁当を取り出した琴ちゃん先生が小さく手を合わせた。
「なっかいいでーーーーす!!!」
いつもの目元ダブルピースと共に大きな声が保健室に響く、にぱっと笑うそらぴょんを見て琴ちゃん先生がくすくす笑ってた。笑われてるんじゃないのそれ。
あと小鳩めっちゃ無視してる。ひったすらにお弁当食べてる、お弁当しか見てない。
さらに笑って見せたそらぴょんが2つ目のパンの袋を開けた。
「えっ、そらぴょんミルクフランス!?」
勢いよく開けた袋にがぶっとかぶりついたそらぴょんを見て飛びつくように声が出てしまった。
「そーだよ」
「さっきもそれ食べてなかった!?」
「さっきのは塩ミルクフランスだから!ちょっと違うの!」
「どっちもミルクフランス!」
お弁当の時間に、同じもの2つって…そらぴょん甘いの好き過ぎる。だってそれはもう同じ機種じゃん。
「さっきのは笹原くんにとって塩気としてカウントされてるんだね」
「咲希、ミルクフランスはいくら塩ミルクフランスでもがっつり菓子パンだよ…」
見た目然り味だってほとんど変わらない気がするけど、そらぴょんは満足そうにモグモグと頬張っていた。
「こーゆう時はだいたい1つは甘いものでもう1つはカレーパンとかウインナーパンとかお総菜パンを選ぶのが相場じゃん」
「メリーそれはステレオタイプ~!」
キャッキャと笑うそらぴょんがチラッと隣に座る小鳩を見た。
わかる、どんな顔してるのか確認したくなったよね。
だけどそんなの気にしないでもくもくとお弁当を食べてるし。
私たちの会話なんて聞いちゃいない小鳩にそらぴょんは前のめりで顔を覗き込んだ。
「ゆいぴーは?ゆいぴーもステレオタイプ?」
その質問は意味わかんないけど。普通人に聞く内容じゃない。
「ちなみにステレオタイプの意味はっ」
「食事に甘いものを取るということが考えられません」
ピシッと被せ気味に軽蔑の視線と一緒に飛んできた。
やば、一気に冷たい空気が流れた。
なんか話変えた方がいいかな!?
昨日見たテレビの話とか!あ、昨日テレビ見てない!
「チョコレートポテトチップス持って来たんだけど、食べる?」
この凍り付いた空気に全く怯まない姿勢はちょっと尊敬する。さすが空色の髪してるだけあって、誰にも染まらないっていうか我が道ガンガン進んでいく姿は私にはマネできない。
「食べたことある?ポテトチップスにチョコレートがかかってるやつなんだけど、あまじょっぱくておいしいの!甘いの苦手でもこれならイケるかと思って!」
小鳩にそんな目で見られて話し進められるのそらぴょんぐらいだよ。
でもありがとう、私の相談したことまだ覚えててくれてありうがとう!
「あとねぇ、柿ピーのチョコとねぇ、リッツのチョコ挟んだやつもあるよ!」
サッとビニール袋から取り出して机の上に並べた。通りで大きいビニール袋持ってきてるなぁって思ってたんだ、ミルクフランス以外にも入ってたんだ。
「リッツにチョコ挟んだやつなんて初めて見た、そんなのあるんだね」
「それめっちゃおいしーんだよ!カロリー爆破してるけど!」
「食べる前に嫌なこと言わないでよっ」
「大丈夫だよメリー、カロリー見なきゃいいよ!」
「今0カロリー理論言うのかと思った!」
ざっくばらんにお菓子を開けて私はもちろん食べる気満々で、咲希もすぐに手を伸ばしてた。
小鳩は…無理矢理押し付けられてた。
「ありがとう笹原くん、私も甘いもの好きなの!」
意外にも琴ちゃん先生がノリノリだった。
「ほんと~~~~?じゃあ琴ちゃんにはいっぱいあげちゃう!」
「ありがとう、お菓子パーティーみたいね」
ふわふわした空気を纏った琴ちゃん先生は笑うと可愛くて、私たちとあまり変わらないんじゃないかと思った。失礼かもしれないけど。
甘いものは別腹と言うけれど、本当にそうでお弁当食べたあとでも余裕に食べれる不思議だよね。
「小鳩、これめっちゃおいしいよ!」
「…そうですか」
「食べてみてよ、カロリー爆破のリッツチョコ!」
「それ言われて食べる人いますか?」
「食べたよ!私!」
「……。」
差し出した手も虚しくしかめた顔で返された。そんなのこんなにおいしいお菓子に対してする顔じゃない。
「ゆいぴーおいしいよ、食べてみてよ!」
「カロリーは怖いけど、止まらないよね」
そらぴょんも咲希も、みんなで小鳩に注目した。
あ、めっちゃ嫌そうな顔してる!
「1個食べてみたら?」
リッツチョコを一口かじった琴ちゃん先生がまだ小袋に残っていたリッツチョコを小鳩に差し出した。そのリッツチョコにみんなの視線が集まる、リッツチョコもプレッシャーえぐい。
「………、1つだけ頂きます」
熟考に熟考を重ねた小鳩が琴ちゃん先生からリッツチョコを1つ受け取って、渋々口に運んだ。 そんな恐る恐る食べなくても普通のお菓子なのに。
「どう?小鳩、おいしい?」
「………。」
「食べられそう?」
「……。」
「ねぇってば!」
「見た目通りの味です」
全然言ってほしい言葉じゃない!
けど、食べられなくもないしおいしくないわけでもないのかな…って勝手にそう解釈しとこ。
「じゃあこれは?柿ピーのチョコ!」
だから勢いで次のも勧めちゃったりして。
「チョコポテトチップスもあるよ!」
すかさずそらぴょんもそれに応戦して。
「食べてみてよ!」
ズイズイと小鳩の前にお菓子を集めた。
「ミルクフランスもあるよ!」
どさくさ紛れに食べかけのミルクフランスまで集まって来たし。
「そんなにいらないですよ!!」
そんでもってやっぱり怒られた。
そうなるのはわかってたけど、半強制的に押し付ける形で返されそうになるお菓子たちをぐーっと手で押し返す。
案外力あるよね、だてに毎日チョコレート作ってるだけはあるなって。全然勝てないしっ
「はいっ、そろそろ終わり~!」
それを見かねた琴ちゃん先生が止めに入った。
「柳澤さんも笹原くんも落ち着いて」
「「…はい」」
ふわふわしてても私たちと同じに見えてもやっぱり先生なんだなって。
「もう授業も始まるし、片付けしましょ」
時計を見ればもうすぐ予鈴が鳴りそうな時間。お菓子のゴミ片付けなきゃ、教室まで結構遠いんだった。
「琴ちゃん先生ありがと~、また来てもいい?」
「いいよ、いつでも」
「じゃあ明日ね!」
「そらぴょん気早っ!」
琴ちゃん先生に手を振る。ありがとうって意味とまたねって意味で。同じように琴ちゃん先生も振り返してくれた。
開けたドアから順番に出ていく、午後の授業なんだっけとか話しながら。
「あ、そうだ小鳩くん!ちょっといい?」
一番最後に保健室から出ようとした小鳩が琴ちゃん先生に呼び止められた。
何かなって思って足を止めたけど、小鳩に睨まれて止めた足を止めることを止めた。
そっか、小鳩からしたら私たちに待たれてもってことね。
体調のことかな?
それ以外琴ちゃん先生が呼び止める理由ないし、そしたら聞かない方がいいよね。クラスも違うし、先に戻ってよう。
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