第11話
「何食べよっかな~、パインにしようかな!小鳩は何にする?好きなの選んでいいよ!」
「…別に、何でも」
「嫌いなものとかある?いちごは季節じゃないし、バナナは1房の量多すぎて買えなかったんだけど、りんごとかキウイとかも全然合うと思うんだよね!」
はいっとカットフルーツの入ったパックを差し出した。
あとはグレープフルーツも入ってる、チョコレート王道フルーツはないけどチョコレートの可能性は無限大だから絶対何でもおいしいから大丈夫。
「あ!俺みかん持って来た!うちのばぁーちゃんが作ってんの!」
私にも小鳩にもみかんをくれた。小さくて可愛いサイズのみかんは剥いたらひとくちで食べられそうだった。
片手にフォーク片手にみかんを持たされた小鳩の眉間にはグッとしわが集まっていたけど。
小鳩、潔癖とかじゃないよね?人が作ったみかん食べられないとかないよね?
あ、みかんは全部人が作ってるか!
「ねぇ食べよ!メリー何から食べる?」
「私はパイン!」
「じゃあ俺キウイにしよ!」
フォークに刺したパインをチョコレートにくぐらせる。
あぁ~、めっちゃおいしそう!食べてないけどおいしい!
トロトロに溶けたチョコレートがパインを甘くコーティングして、冷めないうちに口の中に入れた。
「熱っ」
けど、おいしい!
「最高においしい~~~!!」
そらぴょんもご満悦な顔をして頬張っていた。緩んだ顔がしあわせそう。
小鳩の方を見ると、さっきもらったみかんを丁寧に剥いて輪切りにしていた。
こーゆうとこからこだわりがあるんだなぁ、その方がビジュアルはよく見えるし映えるかもしれないけど。
「食べますか?」
「え、いいの!?…じゃなくて、小鳩が食べなよ!私ももらったし!」
「あまりに見られていたので欲しいのかと」
「ごめん、それは見てた…」
だってすっごい丁寧に切ってるんだもん、見たくなっちゃうじゃん。
どうぞと目の出されちゃったらまぁ食べるしかないし、てゆーか食べたいし。
半分に輪切りにされたひとつをフォークに刺して、もうひとつは小鳩に返した。
「小鳩も食べてよ」
「頂きますよ、美味しそうなみかんですし」
なんかその言葉は意外で。
そんなことも言えるんだと思っちゃった。
確かにばぁーちゃんのみかん、なんて言われたらちょっとグッと来ちゃうもんね。
チョコレートを半分くらいみかんにつけた、その方が可愛く見える気がして。そーゆうお菓子あった気がするし。
小さなみかんは一口でパクッと口に入った。
「わ~~~っ、めっちゃおしいね!そらぴょんのおばあちゃんが作ったみかん!」
甘かった、てゆーかこれはチョコレートつけなくても十分甘くておいしいみかんだ!
「やばっ、普通にもっとみかんが食べたい!チョコレートいらないかも!」
それぐらい甘くて興奮しちゃった、こんな甘いみかんってあるんだー…
でもこれが瞬時に失敗だったと気付いた。
「あ、ごめんっ」
「なんで謝るんですか?」
「え、だって小鳩がせっかく作ってくれたのに…っ」
今のはあんまりよくなかった、否定してるみたいになっちゃったよね。チョコレートも牛乳も貸してくれて、せっかく小鳩が作ってくれたのに嫌な気持ちにさせちゃったかも…
「これだけ美味しいみかんを作るのはそれだけ手が込んでるということですから、1番美味しい食べ方をするのが最善かと思います」
「え…?」
ふと手元を見れば小鳩もみかんを食べ終わっていた。
あ、そっかもしかして…カカオからチョコレートを作ろうとする小鳩だから、おばあちゃんの気持ちもわかるの?
「俺のばぁーちゃんみかん作るプロだからな!」
ずっとチョコレートを食べる手が止まらないそらぴょんが自慢げにふふっと笑って…
「え、プロ!?って何?」
「ばぁーちゃん家、みかんやってんの!これは余った傷ありのみかんだけど味はうまいだろ!」
「えーーーー!?そうなの!?そりゃおいしいはずだよ!」
「ばぁーちゃんの作るみかんは世界一だから!」
すごーい!みかん作ってるって初めて聞いた!
いつものダブルピースを決めてにこにこと笑ってる、そんなそらぴょんの話を珍しく小鳩は興味ありげに聞いていた。
おばあちゃんのみかんはそんな効果もあるんだ、小鳩を夢中にさせる効果が。
「みかんまだあるからいっぱい食べて~~~!」
「わーい、ありがとう!」
ビニール袋から取り出していくつか分けてくれた。傷ありって言う通りちょこちょこ傷はあるけど剥いたらすごくキレイなオレンジ色だったもんなぁ、味が良ければ見た目は気にしないし。
「ゆいぴーもどうぞ!」
「…ありがとうございます」
素直にみかんを受け取った小鳩がじっとそのみかんを見つめていた。みかんを見るのにもそんな真剣な目するんだ。
じーっと数秒見つめ、ぼそっと呟く。
「これだけ甘いならビターチョコのが合いそうですよね」
そこからの小鳩の手際の良さはもはや知っての通り、丁寧にみかんを剥いて一粒ずつ白い筋までキレイに取っていく。お皿に整列させたら今度はカカオの多そうなブラックチョコレートを湯煎で溶かし始めた。
そらぴょんのおばあちゃんがみかんのプロなら小鳩はチョコレートのプロ、一瞬でこんなおいしそうなチョコレートができちゃうんだから。
まるで小鳩は魔法が使えるみたいに。
「できました」
小さな粒に半分だけチョコレートがかかってツヤツヤと輝いてる。クリアなオレンジ色に暗めのチョコレートはキレイなコントラストで。
「すごい!おいしそう!」
「すげぇーーーー!」
「これ…食べていいの?」
「いいですよ」
ドキドキしながらゆっくり手を伸ばした。
なんでドキドキしてたのかな?それはよくわからないんだけど。
「い、いただきます」
パクッと口に入れたら、ふわーっと広がるビターな香りが鼻から抜けていく。最初は少し苦くて、だけど噛んだ瞬間みずみずしくて甘いみかんの果汁が…
「おいしい~~~~~~!」
めっちゃ合うっ!!!
「すげぇ、めっちゃうまっ!」
「ねっ、よりみかんの甘さ引き立ってる感じするよね!」
「うん、これはすげぇ!」
「そらぴょんすげぇしか言ってない!」
さっきのチョコレートフォンデュとは全く違う味がした。チョコレートが変わるだけでこんなに変わるんだ。
「小鳩、これすっごいおいしい…!」
パッと小鳩を見た、だけだったんだけど。
口元がいつもと違って、優しかった。
たぶん笑ってた。
こないだとは、カカオからチョコレートを作ってたあの時とはまた違う微笑み。
そんな顔…、できるんだ。
急に瞳を逸らしたくなった。
「あ、メリー!そーいえば咲希ぽは昨日何だったの?」
「え?」
「咲希ぽ、彼氏と何かあったんじゃないの?」
「あぁー、あれは…」
咲希ぽなんていつから呼び出したんだろう?いや、そんなの何でもいいんだけど。
昨日咲希との用を優先させて、チョコレートフォンデュを延期してもらったから…ざっくりだけどそらぴょんにも咲希のことを話した。ちょっと彼氏と何かあったみたいで話聞くことになったから程度に。
「あれね!咲希の彼氏、サッカー部なんだけど、今度の試合に出られることになったんだって!その報告がしたかったみたい!」
って、咲希は言ってた。今日の朝、そう教えてくれた。
「なんだよ、のろけじゃん!うらやま!」
あんなに不安そうな顔してたのに、考えてたことより全然違ってよかったじゃんって…
その時は思ったんだけど。
あれ?でも…
部活前に話があるって言われたんだよね?
それなのに部活の報告って…、おかしくない?
本当にそんな話だったのかな…
今度はりんごを食べようと思ってフォークに刺した。だけどそのままチョコレートにフォンデュしようと思った手が止まってしまって、私より先にそらぴょんがフォークに刺したりんごをフォンデュした。
「咲希ぽいいね、しあわせじゃん」
「うん…、だよね」
「いいなー」
本当にそうだったのかな?
でも咲希が言うならそうなんだと思うし、これ以上聞くのも違うと思うし…
「メリー?どったの?」
「ううん、なんでもない!」
不自然に止まったままだったフォークに刺さったりんごを勢いよくチョコレートの中に入れた。静かにふつふつと熱を帯びるチョコレートを見つめ、りんごを泳がせる。
私が話を聞くだけで、咲希は何か満たされたかな。
私何か咲希のためになってた…?
「…恋って難しいよね」
「え?急に何?」
「いやっ、…なんとなく。片想いでも、両想いでも、悩みは尽きないのかなぁって」
「…まぁ、好きになったらそうかもね」
そらぴょんには好きな人がいる。それは誰かわからないけど。
たぶん、同じように悩んでると思う。
難しいよ、ほんと。
「もう片付けますよ、部活始めたいんで」
「あっ、ごめん」
パクパクと進んだチョコレートフォンデュはすぐになくなって、私のりんごが最後だった。
私が食べ終わる前から小鳩は片付けを始めてる。きっと想像通りの答えが返って来るだろうと思いながら、一応聞いてみた。
「小鳩は好きな人いないの?」
「そんなめんどくさい人いません」
「そうだよね」
その答えは安心するというか、何というか。さすがチョコレートにしか興味ない男だよね小鳩結都って。
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