第10話
「やっぴ~~~~!チョコレートフォンデュしよ~~~~!!!」
そらぴょんはすごい。どこへ行ってもそらぴょんを貫くから。
小鳩のアイスピック並みに刺さったら大ケガしそうな視線にもダブルピースキメちゃうんだから。そこはちょっと見習いたいぐらい。
「…チッ」
言葉が出て来なかった小鳩が舌打ちで済ませたよ!全部を“チッ”に込めたよ!!
放課後、今日こそはとそらぴょんと家庭科室へやって来るとすでに小鳩も来ていてチョコ研の活動を始めようとしていた。
「チョコレートフォンデュの機械持って来たよ!」
準備のいいそらぴょん、わざわざ家から持ってきてくれたみたい。コンセント入れるだけでいいミニ鍋タイプの超楽々フォンデュ機械、そらぴょんいわくチョコファウンテンは無理だったってタメ息交じりにいわれたけどそんな大きいの持って来るのも大変だしこれでよかったよ。
「そしてぇー、なんとなんと!」
すぅーっと息を吸ったそらぴょんがタタタッと冷蔵庫に駆け寄り、ふんっと鼻を鳴らしてこれ見よがしにバーンと開けた。
あ、やばい。それは嫌な予感がする。
「フルーツも用意してありまっす!!」
あーーー…
小鳩からまた舌打ちが聞こえる。今日何回聞くことになるんだろ、それ。
「そらぴょん、それもうバレちゃってるの!昨日の時点でバレちゃったの!」
「あ、そうなの?じゃあ今のカットしよう!カットフルーツだけに!」
「そらぴょん、鋼のメンタル!」
あぁぁっ、小鳩のイライラが募っていく…
でもまだ言わなきゃいけないことがあって。
チョコレートフォンデュをするのに必須項目なあれ…!
「小鳩様、チョコ研のチョコレート分けてもらえませんか…!?」
予算オーバーで買えなかったチョコレートを頂きたくて。両手を合わせて、申し訳ありませんがと精一杯雰囲気を作ってお願いしてみた。
「…うちは研究会なんで、部費が少ないことをご存じないですか?」
「でっすよねー…」
雲行き怪し過ぎる~…
しまった~、もしかして探したら家にあったかもしれないのに…っ
探してくるんだった、食べ忘れの賞味期限切れたやつとかギリあったかもしれないのに…!
ハァと息を吐く音が聞こえた、これはまた追い出されるやーつだ…
「昨日の余りでいいですか?」
「え?」
「残りなんでそんなにないですけど」
小鳩が冷蔵庫からすでに開封済みの2/3ぐらい残った板チョコを取り出したから、あまりに意外で目を丸くしちゃった。
「くれるの!?」
「いらないんですか?これが不満なら別に」
「いる!いります!超満足です!」
絶対断られると思ったのに、思いの外素直で拍子抜けなんだけど。どうぞと渡されてもらった板チョコ、いつもの小鳩ならこんなことしないのに…
「実は小鳩も楽しみにしてた?」
「いえ、微塵も。早く帰ってほしいなって思いまして」
「あ、なぁーるー」
わりといつもの小鳩だった。それに加えてちょっとだけ学習した小鳩だった。
「メリーよかったね~!!!」
「う、うん!よかった!」
たぶんよかった!!
じゃあさっそく!とそらぴょんがチョコレートフォンデュの機械のコンセントを入れた。
もう一度ハァと息を吐いた小鳩はスクールバッグから取り出したエプロンを着て、自分の作業に取り掛かろうと冷蔵庫を開ける。あくまで私たちとは別のスタイルってことね。まぁ、いいか。
準備が出来て食べる時誘えばいいもんね!
誘えば、なんだかんだ付き合ってくれる…かもしれないしね!
「ねぇメリー、これスイッチ入れたらチョコレート入れちゃっていいの?」
「うん、そうじゃない?鍋になってるから溶けたら出来上がりなんじゃないの?てゆーかそれそらぴょんが持って来たやつだよね」
「使うのは今日は初めてだから、じゃあチョコ入れ…っ」
「ちょっと待ってくださいっ!」
パシッと小鳩が板チョコを持つそらぴょんの腕を掴んだ。グッと止めるように、険しい顔で。
「え…、ゆいぴー何?どったの?」
「直接チョコレート入れる気ですか?」
「うん、だってチョコレートフォンデュだから溶かさないとじゃん」
「何も入れないんですか?」
「何も?って何を??」
きゅるきゅるするそらぴょんの瞳とは対照的に絶望の淵かと思うぐらいのげんなり顔で、はぁ~~~っと今度は長めに息を吐いて頭を抱えた。
え、何が?何がダメだったの!?
「わっ」
そらぴょんから板チョコを奪い取って、ぶんっと腕を投げ捨てるように払った。
怒ってる。この表情は怒ってる。
「こ、小鳩…?どうしたの?何っ」
まぁまぁ落ち着いて、となだめようと小鳩に近付いたらギンッと今までで一番鋭い視線が飛んできた。その瞳には逆らえなくて伸ばした手が戻って来ちゃった。
「チョコレートなめないでもらえますか?」
「…っ」
もう何も言えなくて、ごくりと飲み込んじゃった。圧がすごすぎて、近付いたつもりだったのに逆に距離を取っちゃってた。
「一旦スイッチを切ってください」
「えっ」
「スイッチ切ってください!」
「あ、わっ、はいっ!」
「切った!切ったよ、ゆいぴー!」
小鳩の圧力に負けてそらぴょんとピシッと並んで整列した。なるべく邪魔にならないように、2人きゅっと固まって声をつむんで。
はぁっともう一度タメ息をついた小鳩が引き出しから速すみやかにまな板と包丁を取り出したから。
「まずは板チョコを細かくします」
スッと包丁を構えて、トントントンッと細かく刻んでいく。
これは溶けやすくするため…かな、それはなんとなくわかった。
「チョコレートですから、もちろん熱を加えれば簡単に溶けます。でもそれだけだと冷めた時固まってしまいますし焦げやすくもなります、風味だって変わってきますから美味しいチョコレートフォンデュにはなりません」
へぇ、なるほど。
チョコレートフォンデュってチョコレートだけじゃないの?ただ溶かしてつけるだけかと思ってた。
チョコレートを刻み終えた小鳩が冷蔵庫へ向かった。
冷蔵庫を開けながら左手を顎に当て何か考えてる。何を考えてるんだろ…
「昨日生クリームは使ってしまったので、牛乳を使います」
「え、牛乳?」
「あっさりめのチョコレートフォンデュにはなりますが、固まりにくくなめらかなまま出来上がりますから」
そう言って牛乳とチョコレートを鍋の中に入れ、スイッチをオンにした。ヘラを取り出してゆっくりかき混ぜ始める。
「へぇー、チョコレートフォンデュってチョコレートだけじゃなかったんだな~」
…私と同じこと思ってたっぽい。
やっと動き出したそらぴょんが鍋を覗き込んだから、すぐに甘い香りが立ち込めてつい私たちの心も緩んじゃった。
「ねっ、チョコレートだけでもおいしいイメージしかなかったよね!」
「ね~、1個勉強した~!俺レベルアップした!」
小鳩の鋭視線はすっかり呆れた視線に変わって、私たちを見る瞳はいつもと違う冷たさがあったけど。
「そんなことも知らないでチョコレートフォンデュしようと思ってたんですか?」
「「……。」」
はいはいはいっ、気を取り直してチョコレートフォンデュ!
あとはもう食べるだけだから、冷蔵庫からカットフルーツを取り出してセットになっていた専用のフォークをそれぞれ持った。
小鳩にも押し付けるように渡して、そらぴょんの“いただきます”の掛け声でチョコレートフォンデュが始まった。
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