ロケットは進み続ける
いつだって僕にあるのは未練と後悔だ
それ以外の何も、少なくとも目に見えることはない
自分の思い上がりと甚だしい人間不信(つまりは嫉妬)が食い散らかしたあとを
自分が不幸みたいな面して物憂げに眺めて
そして何もそこから拾うこともなく、ぼうとしている
これほどまでに醜い生き物があるだろうか
幸いなことは
唯一幸いなことは、それを眺めるものがだれもいないことだ
病熱も鳴りを潜めるような真空の中で
誰も僕の近くにいないことだ
地球を離れてどれだけ経っただろうか
無線ラジオの喧騒も、耳の奥にこびりついた少しを残すのみ
自分の息を吐く音と、唾を飲みこむ音とが響く船内を
揺られるままに漂っている
最初の分岐点は些細な、吹けば飛んでいくような
そんなきっかけだったはずだ
誰かのどうでもいい一言だったり
学校の帰り道に普段と違う道を歩いてみたり
自販機で飲み物がもう一本当たらなかったり
いつもとは違う向きで寝床についてみたり
そして気付けば、ずいぶん遠くまで来てしまった
ただ少しの推進力で無限に進み続け
誰もいない宇宙にまでやってきた
誰かに憧れられる生き方をしたかった
あこがれる何某に近づきたかった
誰かの特別になりたかった
それだけが僕の存在を肯定しうる唯一の手段だと知っているから
ただ、どこかで一つ、間違えてしまったらしい
もはやここまで来てしまっては
誰かと分かり合える未来なんて、絶対に訪れない
大切に育てた花ほど早く枯れてしまうように思えるけど
花が枯れるのはいつものことなのだから気にしてもいられない
明日から、の明日はいつやってくるのか
いつかきっと、のいつかはいつやってくるのか
そんな僕の憂いもお構いなしに、ロケットは進んでいく
ずいぶんとエネルギー効率の良いロケットだ
彼が止まる日は、僕が止まる日よりも後に来るのだろう
また今日もねむい
たいして働いてもいないのに
睡眠を要求するだなんて
なんてあさましく図々しい肉体だ
それでも
順に、次第に、確実に、すべて過去になってゆく
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