土人形の生涯
しめしめ、今日は砂場には誰もいないようだ
今だけはこの場所は、僕だけのオリジナリティ
家から持ってきたカップに砂を詰め込んで
自分の体にじうじうと練りこんでいく
布の体にはどうにもなじまないが、慣れた事、お構いなしだ
うじうじしてるやつなんて、誰が好ましく思うだろう
誰しも堅牢で朗らかで太ましく生きることを望む
そのように振る舞えないのならば
たとえ人の本質が変わることがなくとも
外付けの装飾品でそう見えるようにするだけだ
いつしも、自分の行動が誰かに採点されているような感覚がある
一挙手一投足に点数がつけられていて、
小さなミス一つで赤点に達して床が抜け落ちるような
人間誰しも自分を棚に上げるのが好きだ
自分がよく見えるところに自分を陳列して
その場所に並ばない泥人形を蔑んで遊ぶ
「人を値踏みするような生き方をするな」と児童文学は教えてくれたが
人を値踏みするかしないかを選べるような立場にないとかかわりない
自分に足りない部分があるのなら補えばいい
補うための材料は、公園の砂場に転がっている
洒落たカップが落ちている
砂を放り込んで固めて自分につけてみた
どうにも不格好で、僕は木偶の坊
気恥ずかしくなって手で払いのけた
質量に見合わない重みが砂場に飲み込まれる
遠くで誰かの笑い声が聞こえた
足で形がなくなるまで砂を払っても
面影はいつまでもそこにあるようだった
自分に合うものというのは口にしてみないとわからない
試して、蔑まれて、点数を減らしながら、
明日が来ることを願って砂を塗りたくる
水分を含んでいない日は、蛇口をひねって水足しながら
帰り際、旧友に出会った
彼は僕を見て、良く立派になったものだと褒めた
見当違いの評価を、的外れな評価をもらったときほど落胆することはない
それは僕の外面が有効に機能した証左であって
他方で彼の無関心を、無情にも証明するからだ
その場限りの軽口で最低限の会話を交わして
とうに会うこともないだろう過去に決別する
まだ自分は液状のままだ
思い上がりも甚だしい
こういう日にこそ、真価は試され、そして敗れた
まだまだ足りない
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