怪獣

教科書の片隅に書いた落書きが

気づけば巨大怪獣になっている

彼はとうの昔に街を焼き終えたようで、

次の指示を待つように、こちらをじっと見つめている

ただ2Bの鉛筆を紙に当てつけただけなのに

彼は意にそぐわないことばかりをしてくれる


それは僕への当てつけだろうか

人の気持ちも理解せずに、

誰かをわかったような気になって

さも酸素で肺を満たす権利を得たかのように得意げになって

見るところの無い踊りを踊っている

消えてしまいたい僕への呪いだろうか


いくら文献を漁っても

彼を打ち倒す術は見つからない

かつて誰かが残した銀の矢も存在しない

受け入れることで自分の一部として受容されるような演出も予定されていない

ただ彼が全てを焼き尽くし終えた痕跡ばかりが僕の眼下には広がって

延焼する街をぼうと眺めることしか出来ない

訂正、僕は誰かのために文献を漁るようなことはできないのだった

この紛い物だらけの知識は、漫然とした僕の中にあるゆるやかな確信


昔作った、図書館の利用カードは

果たしてまだ失効していないだろうか

日常の忙しなさを都合よく言い訳に利用してばかりで

恨めしき己の姿をサイズ違いの用紙に気まぐれに書きなぐる

それが意味を持つ日はきっと来ないだろうに後生大事に保管する

ものとしての形を伴わずとも、ゼロとイチの配列として食らう


何もかもを書き留めておきたいとおもう感情は

己の生き様への不信感の現れだ

これまでの積み重ねも、今ここにあるはずの二十数年の重みも

すべてがゴシップ記事のように胡散臭く

それでも厚さ一ミリにも満たない紙を積み重ねて足場を作る

安定感のない己自身に時折気がついて

溢れ出んとする胃の内容物を留める


日々を生きた証は薄氷のような生涯を証明するだろうか

どれだけガラクタをかき集めても、彼らはみな裏切りの準備を進めている

ヒト皆が記憶を失うような日が来れば

日が暮れるような一室に価値が現れるだろうか


壁の向こうの景色を一目見るために、ただ汗は少しでも流さないように

風の吹くままに木枯らしに混じっていく

取り繕うようにおさがりの落ち葉を巻いて

十センチ大きな身長で小気味良く笑う

薄っぺらな言葉は誰にも届かぬままに

紙のように鋭い切れ味で、誰かの頬を掠めるだろう


血の垂れるのも、僕にはわからない

己を取り繕うのに必死な木の枝は、貫く落ち葉に気づけないものだ

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