徒歩

真夜中に地響きが鳴り響いた

夜が動き出したのだ

一日を前に進めるために東から西へ歩いていく

ちいぽけな人間が駆け足で追いかけようとも

決して追いすがれないような速度で流れていく


生き急げVS人生にゆとりを

砂場に落としたスコップがどこまで埋もれるかで決めよう


形の変わらない雲のようにつまらない日々を過ごす

歩き方を間違えたので仕切りなおす

左折のないドライブのように退屈な日々を過ごす

ふと思い立ったようにTODOリストを見直す


高尚な物言いをしているときは

川底で光る小石のように人生が輝いているように見える

川底から石を掬い上げてみて

その輝きが些末なものだったことを知る


似たような夜に心当たりがあった

張り付く汗を攫うエアコンの風に既視感がある

思えばどこからか、時間がループしているようだった

身体ひとつと心ひとつだけは繰り返さずに

重ねるループで過ぎ去る時間を刻み付けている


時間は過ぎていく

僕らは次へ、向かわねばならない

ループを抜け出るための方法は単純明快で

それでも一行で矛盾してしまうのは

事がそう単純でないことを表すようで好きだ


ずっと井戸の中にいたい

自分は特別だと思い込みたい

万能感や満足感に浸っていたい

相反する感情が同居することはそう珍しいことではなくて

むしろ好き嫌いや大好きのように至極ありふれたもので

何もかもを朽ち壊してしまうような、

危険な衝動が身を亡ぼすことをこそ恐れている


勝敗が付かないような日々をこそ望んでいる

いったりきたりのやじろべえ

誰にでもいい顔をする

ループの只中にいれば、変化していくことへも鈍くなる

そうやってホットミルクでごまかして

たまにコーヒーで大人ぶって

歩いていく夜の背中を見送っている

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