都合の良い急用
いざと掛け声をかけてみても
小首を傾げて、体は眠る
日頃のツケを払わぬ限り
返事の一つもないらしい
餌をやらねば子は喚くし
水をやらねば花は枯れる
長く見向きもされなければ
存在にすら疑いがかかる
最後に肥料をやったのはいつだろうか?
さび付いたネジはもはや己の役目も忘れてしまった
いくつかどこかへ転がっていったようだ
初めからあったかももはや定かではない
肥料袋は洗濯物の山の下に敷かれていた
保健室に行ったらロボットに改造された
他の手段はないかと問うてみるも
おのれの責任と説かれてしまえば
逆らうべき手足も潤滑油足りず
ぎしぎしと鳴る音は水滴に負ける花より惨めだ
しばらく体を横たえてみたが
なおいっそうにさび付く身体が鳴いた
このままではならぬとふと思い立っても
ベッドから降り立つ前に忘れてしまう
一度ここに居ついたがすべて
もうここから出ることは叶わないのだろう
知らぬ間に配線までつながれていた
コンセントからあふれ出る数百ワットの電流を
じうじうとすすりながら日記を読み返す
電力メーターはくるくる回る
請求書は郵便受けに入れたままにしてある
夢から夢へと渡り歩くような生活を続けている
宗教勧誘のチャイムの音で微睡に引き返す
インターホンとのぞき窓を覗き見て
ここにない姿を見送った
誰かが決めた時計に依拠した
一分一秒だなんて、いつから信頼できただろう
記憶は解けて消えていくもの
つなぎとめようとする無為な試みも
手繰り寄せようとする愚かしい試みも
秒針は固く動こうとしない
この先へ、また先の景色をうかがい知ることはできない
いいんだ
それでいい
後悔しようが
悔やんで悔やんで
どうしてあの時
こうすべきだった
濡れた枕の気持ち悪さに板挟みになりながら
いかに悔いようとも
わたしの人生の終わりはそれでいい
背中に張り付いた胃酸を吐きたくなるような感情も
機械の体には馴染んでいく
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