第2話 飢饉対策
ーーー征服歴1276年 ボーロード王国王都郊外ーーー【2】
あの日、花畑で記憶を取り戻してから1年が経過した。
「おーい、出来はどうだーい?」
「豊作でさぁー、殿下ー!」
広い田園地帯で昨年まで育てられていたのは主に小麦だった。
その一部で、僕は王宮の花畑で観賞用に育てられていたジャガイモを育てさせた。
「いやぁあの時は大変だったな〜」
「大変だったのは私ですよ殿下! レーショの根を掘り出して食べようなんて言い出して、しかも料理まで手伝う羽目になって!」
「ごめんごめん、でも美味しかったでしょ?」
前は生で食べたせいで多くの人がお腹を壊し、身体の弱い者は死んだ。ジャガイモに毒があると、かつての僕は知らなかったから。
なので皆に食べさせる時は、毒のある芽をちゃんと取ってから茹でたり揚げたり潰してみたり、様々な方法で食べさせてみた。
「父上やアーリ兄さんは喜んでくれたけど、結局イタック兄さんは食べてくれなかったなー…」
「イタック殿下は神官の修行をされていますから…聖典に記されていない作物を食べるのに抵抗があるんでしょうね」
今日僕とリノは、本格的に稼働したジャガイモ畑の収穫を視察しに来たのだ。
「今年は夏も寒く小麦は不作でしたが、ジャガイモはよく採れましたからなぁ。有り難えことです」
この畑の責任者である農夫が嬉しそうに説明する。
「来年はもっと作付面積を増やして、もし飢饉が起こっても大丈夫なようにしないと」
「ガッハッハ、俺らも手伝いますぜえ王子!!」
農夫が誇らしげに僕の背中を叩き、リノが頬を膨らませて文句を言っていた。
ああ、きっとこれならあの破滅の未来も回避できる──────────────筈だった。
──9年後───
「我が民達よ、悪逆なる一族は今ここに捕らえられた! 彼らは飢饉のおり、諸君が飢える中で飽食の限りを尽くし、自らの豪勢な食事の為に諸君らの僅かな蓄えさえ奪い取った!」
「「「 肥えすぎた豚共に制裁を!!」」」
「飢えた諸君が盗賊に身を落とした時はどうした! 自分達を棚に挙げて、諸君らの同胞を悪と断罪し処刑しようとした!!」
「「「二枚舌の狐共に制裁を!!」」」
「あまつさえ、諸君らを救うために立ち上がった我らを、卑劣なこの者達は討ち滅ぼそうとしたのだ!!」
「「「邪悪なる王家に正当な裁きを!!!」」」
僕と家族は処刑台の上で、イワギマ侯爵の演説を聞かされている。
そして呆然とする僕の前で、前と同じようにと家族が次々と首を刎ねられ、僕の番が回ってくる。
「何で…何でこうなった」
視界が地面に落ちてゆく中で僕の目に映ったのは、僕を逃がそうと暴徒達に立ち向かいボロ雑巾のようにされて殺され吊るされた農夫のおじさんの姿だった。
征服歴1285年、ユーシア大陸中央から北西に外れた地に存在した小国ボーロード王国は滅んだ。
飢饉に備え、レーショの地下茎(後世ヴィーテ=ガスク連合王国の農学者がバレーショと命名。ボーロード王国ではジャガイモと呼ばれていた)の作付を行い、餓死者を出さず征服歴1288年の大飢饉を乗り切ることに成功したが、その食糧を狙う隣国に侵攻され大きな被害を被ることとなる。その建て直しの為に民衆に重税が課され、税を払えない農民は流民となり国の治安が悪化し内乱が発生した。それに同調したイワギマ侯爵を中心とする貴族連合が王都を短期間に陥落させ、王とその子ども達を尽く処刑し革命は成立した。
その後、新生イワギマ王国は再び他国からの侵攻を受け、民衆の支持を急速に失い僅か2年で崩壊する事となる。
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ーーー征服歴1275年 ボーロード王国王宮ーーー【3】
「……………あれ?」
そして気づいたら僕、ツーク・ボーロードは再び懐かしい王宮の庭に佇んでいた。
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