第1話 2 度目(実質3度目)の人生


ーーー1275 ーーー【2】


 ここは王宮に僕が作った小さな花畑だ。


 10、12歳の僕が趣味で行っていた園芸を長兄のアール兄さんが見つけて、こうして王宮の一角を僕用に貸してくれた。そして専属侍女のリノ・ギラゥモや、当時まだ存命だった彼女の母と協力して立派な花畑を作った。

 そう、こうして小さいがきれいな白い花が咲き乱れる花畑を……。


「あれ、僕は死んで……っう!?」


 呆然と立ち尽くす僕の頭に激痛が走る。

 それは10年間に発生する数多の悲劇。

 干ばつ、洪水、そして蝗害による大飢饉。


 積み重なる餓死者は自分達を救わなかった王家への怨嗟を生み出し、人々は他者から奪う事で己の糧を得るようになった。

 国の治安は崩壊し、国を糺すために立ち上がった者達は力によって弾圧され、さらなる憎悪が国中を満たした。


 この美しい花畑もいつしか枯れ落ち、その根を掘り出し飢えを凌いで───


「そうだよ、これがだとあの時分かってたら………え?」


 が、僕の口から漏れる。


「僕は──は──何…を」


 再び頭痛がを襲う。

 先ほどの比ではないが頭に流れ込む。30の人生、俺がかつてここではない何処か、ニホンという国で生きた人生を。




「殿下…ツーク殿下?」

「ぅ…あ……リノ?」

「はい!」


 いつの間にか僕は、花畑の真ん中でリノに膝枕をされていた。

 同い年だけど僕より背の高いリノは、まだ幼くも整った顔立ちを嬉しそうにほころばせて僕の顔を覗き込んでいた。


「僕、寝てたの?」

「それはもう、気持ちよさそうに花畑の真ん中で寝ていたので、こうしてお供しておりました!」

「アハハ…ありがとう」


 リノは誇らしげに、まだあまり膨らんでいない慎ましやかな胸を張る。

 その艷やかな黒髪は、僕が誕生日にプレゼントしたリボンで括られている。


「でも、今日は暖かいからいいですけどそろそろ夕方です。戻らないと風邪をひきますよ?」

「そうだね…戻ろうか」


 僕は立ち上がる。そして僕の服についた土埃をリノが軽くはらってくれる。


「今度こそ…」

「どうしました殿下?」

「あーいや、何でもないよ」


 僕の呟きが耳に入ったのかリノが首を傾げる。

 それを誤魔化して、僕達は城の中へと戻った。



 今のには2つの記憶がある。


 ボーロード王国第五王子として、国の崩壊に何も出来ず翻弄され全てを失った愚か者。


 かつて西暦が使われる世界の日本という島国で30年ほど生きた、家庭菜園が趣味の平凡な男。


 何故僕が、時の流れを遡ったのかは分からない。

 だが、僕に出来ること、俺がやるべき事だけは分かっている!


 そうとも、今度こそ守るのだ。この平和な日常を! 

 ありきたりで幸せな、この穏やかな日々を!


「僕ならできる。と、の二つを識るなら」


 が必ず、あの未来を覆す。 

 が必ず、護ってみせる。リノを、家族を、そして飢えと憎悪に狂い殺し合った、愛するべきこの国の人々を!!




 

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