第4話 悪夢3

2角の鬼のようになってしまった俺は布団に潜り込んだ。これはなにかの間違いだと頭を触る。触るのはやはり2本の角のようになった髪の毛であった。俺は布団に潜り込んだまま会社に電話して有給を頂くことにした。


今日中に何とかせねば。いや、今週中か?何れにしろこんなことで休むのはごめんだ


俺は発毛剤のお客様センターに電話した。


はい、お伺いします。


昨日から様子がおかしくて。目眩や立ち眩み、それに髪の毛が1本図太いのが生えてきたと思ったら今日は2本になっている。これはどういうことだ?


コールセンター側としたら、丈夫な髪の毛が増えていると思われたのだろう。そこの部分には一切触れず


目眩や立ち眩みがある場合は使用を中断し、お近くの病院で診断して貰うことが宜しいかと思いますが。


そこではない!あまりにも図太い髪の毛が生えてきたのだ!1本!今日はそれが2本になっている!


はぁ?効果は抜群だったということでしょうか?ありがとうございます。


違う違う!1週間前まで何万本の髪の毛があったのだ!それが1本図太いのが生え、今日は2本になっているのだ!


はぁ?増えたので宜しいことかと思いますが?


ダメだ。話が通じない。どう言えば伝わるのだ?この惨状を見せつけなければ分かって貰えない。そう思った私は


上のものを出してくれるか?取り急ぎ伝えたいことがあるのだ。あなたでは残念ながら話にならん。


コールセンターの女性は少々お待ちくださいと言い保留音が流れた。俺は何と伝えれば良いか考えて待った。やはり会って見せるしかない。

保留音が止み、お待たせ致しました、と男性の声だ。丁寧で慣れた対応に思える。


いかが致しましたか?


何と説明すれば良いか...とにかく見て頂ければ分かるのだが...そちらに写真を送るか何かしたいのだが、そういった対応はされていますか?


何か皮膚の爛れとかそういったことでしょうか?


それとも違う。とにかく見ていただきたいのだ。写真を送るから、えっと、取扱説明書に書いてある相談センターに送ればいいですか?


あの、ええ。送って頂くのは結構ですが、まず、どういった症状かを話して頂きたいのです。


さっきの女性に話した通りだ。


それでしたら伺っております。当社の製品に不備はなかったかと思いますが?


とにかく送るから見てくれ!話はそこからだ!


ガチャンと電話を切り、再び布団に潜り込んだ。2本の角のような髪の毛と話したところで信じては貰えまい。言葉では通じぬのなら見て貰うより他にない。俺は相談センターのメールがないか確認した。まったくこのご時世になってもメールすらなくコールセンターのみとはどういった了見だ。こういうところも何とかして欲しい。


俺はメールを諦め、頭の上にスマホを向け撮影した画像をプリンターで現像し、近所の奴らに見られぬよう帽子を被りポストに投函した。ポストの回収時刻は午後3時。速達で送りたかったが、もはや気力は尽きていた。それにやりたいこともあったからだった。俺は家路を急いだ。

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