誰かの召喚獣だったかも……

 店に帰り着いたシェフたちは、くたくたに疲れていた。特に魔法を連続で使ったアルの疲労がひどく、自分の部屋へ入るなり倒れこんでしまう。

「ぼくの魔力、分けることができたらいいのだけど……」

 申し訳なさそうに言うのはピットである。四人の中で一番若い彼は、魔法も使える魔獣調教師(テイマー)で今回の戦いにおいては、野生の香草(ハーブ)や薬草などを採取していただけだった。

「今回は出番なしだったな、ピット」

「仕方ないじゃない。ぼくの凶竜(ペット)たち、連れてこられないんだからー」

 パタの言葉に、ピットは口をとがらせる。その様子を見てベッドに横たわっているアルが笑う。

「もーお、アルまで」

「でもピットはピットですよ? 気にしないでいてほしい」

「明日は臨時休業な。表に張り紙をしてきた」

 シェフが室温計を持って、デジタル表示されている数字を指さした。

「この頃はただでさえ暖かかったのに今晩は特に暖かいよな?」

「気温?」

 と応じるパタに

「やけに暖かいよな? 今の季節は冬だろ。まだ二月なんだしさ」

「これもあの時空門(ゲート)のせいか?」

「たぶん」とアルからの返事に「そっか」とパタは何やら考えている。

「あいつ、キメラ亜種だっけか。最後、変だったな」

 パタの言葉をピットが引き継いだ。

「たったあれだけのダメージで、普通は倒れないよー。それに誰かの召喚獣だったかもしれない」

 確信はないけどね、という。ピットがつぶやくのをアルは聞き逃さなかった。

「その可能性はありますね、ピット。あれがもしも誰かの召喚獣だったなら、召喚者が近くにいるはずで、そいつがおそらく、あの時空門(ゲート)を捻じ曲げたのでしょうね」

 見当は? というシェフの問いに、ピットがアルの言葉を引き継いで、

「ないよ。だけど、ゲートを捻じ曲げるほどの強い魔力を持った人だったら、ぼくとアルならすぐに感知出来るのに、あの場所では異常なかったよ?」

「……ということは、だ。人とは限らないやつが、あれを現代世界(こっち)に呼んだってことになるな」

「今は目立ちたくないから状況を静観しよう」


 その夜、アルが高熱を出した。全身がだるくて、関節がズキズキし、そのうえ咳も出るという。その症状は、今、世間で流行っている流行風邪(インフルエンザ)とそっくりであった。

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