オイタン食堂は今日も大盛況 (旧題:ジビエ料理は異世界食堂で)
あかつき らいる
オイタン食堂
活力みなぎるステーキの注文が常連客から入った。
「シェフー。あの注文、どうするの?」
ピットがシェフに問う。中性的な顔立ちのピットが不思議な声色で話しかけると、それまで暴れていた動物たちがおとなしくなるから不思議である。故郷では魔法も使える魔獣調教師だったので、それが特技にもなっている。十年ぐらい前からシェフの元にいて店を手伝っている。それ以前の記憶はないらしい。本人曰く「靄がかかっていて思い出そうとすると頭が痛くなる」そうだ。
「あれな。今、食材調達人に依頼を出しておいたんだが、果たして入るかな」
野太い声のパタだ。筋骨隆々とした彼は見かけから分かるように戦士職だ。見るからに頼りがいのある分厚い身体をしている。少々顔が怖いと感じる人が多いため、時々、子どもを泣かしてしまう。彼自身は『人は見かけによらない』にも例外がある事の生き証人だった。故郷にいた頃は今よりももっと殺伐とした空気をまとってはいたが、シェフもアルも何度となく彼に命を救われている。
「食材はライデ・ドラゴンさ。卵もくりゃあいいんだがな」
二人に向けてシェフが応える。シェフは異世界(オイタン)食堂の家主だ。年の頃は三十代前半。落ち着いた顔立ちをしているが、はしゃぐと子どものようにも見える。特技は各地の伝承を集めて歌にすることである。吟遊詩人(バード)の称号を持っている。
「狩るのが大変でしょうが……、入るといいですね」
嬉しそうに微笑みながら言ったのはアルだ。魔法使いの彼女は職業柄か店の誰よりも冷静で、中性的な顔立ちをしているので時々男に間違われるが、本人は気にしていないようだ。その性格は穏やかな顔と口調によく表れている。だが一旦戦闘になれば、彼女は魔法ばかりではなく武器も扱うことができる。そのことを秘密にしていた。あまり知られたくないらしい。
■
ここオイタンに最近ひっそりとオープンしたばかりの異世界食堂では野生動物や害獣などの肉を専門的に食べさせてくれる。まぁ何にしろ、いわゆる「ジビエ料理専門店」なのである。異世界食堂と名乗っているのには理由がある。実際に、異世界からこの現代世界へと、空間のひずみによる異世界の魔力の暴走でできた渦に巻き込まれ、店ごと転移してきたのだった。
途方に暮れた店のオーナーがヤケになって付けたのが「異世界食堂」という名前だった。少しでも故郷を忘れないために、という理由かららしい。故郷 (オイタンから見ると、それこそ異世界だが)では、ダンジョンの入り口付近で、冒険者を相手に営業していた。オーナーを含めて従業員は四人。魔法を使える従業員が二人、戦士職が二人という構成だ。おそろいの制服(エプロン)を着て、楽しみながら営業する。時にはモンスターの群れに襲われ、これを撃退したり、店に来た客とそのままダンジョンツアーに出かけたりもしていたのだ。
店が巻き込まれたマジックストームは、しばしば故郷で発生していた。だが、店が異世界(オイタン)に転移するほどのは今回が初めてであったため、対処方法が分からず、お先真っ暗である。根っからの楽天家のシェフは「ま、そのうちなんとかなるだろう」としか思っておらず、従業員(なかま)もシェフがそういうのなら、とあまり考えないようにしていた。
店の奥には、なぜか魔法陣が描かれてある四畳ほどの部屋が二つあった。その部分だけ、故郷(あっち)とつながっているようで、収納袋ぐらいなら行き来ができる。
ここは主に食材の調達に使われる。現代世界のオイタンで調達できない食材も、この魔法陣を使えば即座に入手できる。それは故郷の食材調達人(ハンター)たちに、協会(ギルド)を通じて依頼をかけるからだった。
支払いはオイタンのお金を魔法陣の上に置くと、どういう仕組みかは知らないが、故郷の銀行につながり、換金してくれるシステムで、その逆もあった。換金業者が専門にいる。
さて、この「異世界(オイタン)食堂」は、今ではオイタンの人々に「ジビエ料理を提供する、しかも安い、うまい」と口コミで評判の店になりつつあった。店の奥の魔法陣が光る。魔法の収納袋がデンと置かれてあった。故郷の食材調達人からの納品であった。オーナーのシェフは中身を確認すると、それに見合ったお金をもう一つの魔法陣の上へと置く。
ついに来た、トントントンビョーウシの肉だ。そのついでにオイラチターの肉も入っている。魔法の収納袋には食材調達人ギブという名前が刻印されてあった。その名前に見覚えはないが、そんなことはどうでもいいのだ。肉が大量に入荷できたのだから。
「今週は肉祭りでいくぞー」と、シェフは言った。
「久々ですね、シェフ」とは、アルバードだ。とある理由から男性のふりをしているが、魔女(メイジ)である。
「オイラチターの肉はどうする? いつもの通りでいいか?」
とは、パタだ。
ああそうだな、とシェフは思案する。
近頃の客の中には「家族よ」といってペットを連れてくる者も多い。お行儀が良ければ「家族ですね」と何事もなかったかのように招き入れるのだが、なかには行儀が悪いペットもいるので困っていた。飼い主と一緒に来るペットたち用の食事も提供し始めたところだった。
「オイラチターはいつも通りのペット用に。トントントンビョーウシはブランド加工をな」
「うんー」
誰よりも先に答えたのが最年少のピットだ。
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オイタン食堂は今日も大盛況 (旧題:ジビエ料理は異世界食堂で) あかつき らいる @yunaki19-rairu
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