並行世界伝記集「姫の輪郭」 ――大地と大空の間に編まれる歴史と社会と、そこに生きるひとびとの物語――
◎編訳者まえがき
我々の世界から遠くかけ離れた『並行世界』に今も生きる知人から、何冊かの書籍が届いた。複数の著者の手による、様々な立場の者たちの物語だ。
かの大地と大空の間で生じた、とある国の内乱から四半世紀あまり。書籍はいずれも、この激動に巻き込まれた当事者たちが、内乱を通じて大きく変わった自身の生活や、人々の社会について記したもの。
彼らの物語の主人公は歴史の主役でなく、歴史の主人公は彼らの物語の脇役。
ときに人は突如、全く予期していなかった事態に巻き込まれる。その瞬間から、個人の力ではどうしようもない社会の大変革、歴史の激流に翻弄されてしまう。それでも一人ひとりが、それぞれ大切にするものを守ろうと必死に抗い、支え合って生き抜こうとする。突如巻き込まれた非日常に困惑しつつも、気付けば人々は次第に慣れ、適応していく。
数々の危機や混乱の渦中で、自らの命や、それに値するものを守るべく逃げ出したり、ときに必死になるあまり他者に残酷な行為をしてしまうこともある。さらには正常な感覚を保てなくなって、平和な時代なら決して許されないような嫌悪すべき行為を嬉々として行うようになってしまった者たちが存在することも、紛れもない事実。しかし逆に、以前だったら絶対しないような他者への善意や良心を示す者もまた、少なからず現れるものだ。
当事者たちの記述には、そういった様々な人間模様が綴られている。彼らの体験が、ひょっとしたら何処かで誰かの役に立つかもしれぬと考え、日本語に翻訳して、若干の編集を加えて公表することにした。
なお彼らの言語では、固有名に一般名詞ほぼそのまま用いることが多いので、基本的には近い意味の日本語に置き換えている。また我々の世界の常識と大きく異なる箇所については、必要に応じて註釈を加えた。
編訳 安辺數奇
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