成長の証

 ある日、ジェンソン国王がやって来た。


「成人の儀が控えておる」


 ヒロにとっては、何だそれは、という具合だったが、セオドアにとっては待ちに待ったものだったのか、瞳がきらりと輝いた。


「僕も出ることができるのですか? 今年に?」

「左様。間に合わぬかと思ったが、元気になって儀式に参加することができて良かった。これもヒロのおかげである」


 ヒロは謙遜から深々とお辞儀をした。


「儀式は一ヶ月後に執り行う。良いか?」

「はい。その頃には成長痛も声変わりも落ち着いているかと思います」

「分かった。ではそのように」


 ジェンソンが退席した後、ヒロはセオドアとエナに聞く。


「成人の儀って何ですか?」

「そうか。ヒロは知らないのだな。成人の儀とは、成人を迎える王族がいる時に行われる儀式だ。一人前になったというお祝いみたいなものか。十五の年に行われる」

「セオドア様は病でそれどころではありませんでしたが、無事に儀式が行えるようで良かったです」


 成人の儀とは、成人の日のようなものらしい。

 ところで、セオドアが元気になったということは、そろそろこの世界からお暇する時が近付いているということ。短い間だったけれど、ここの人たちは優しくしてくれて、楽しい思い出もできたし、良いところだった。

 セオドアを見れば、あんなに頼りなかった背中が、がっしりと力強いものになっていて、病が治りかけてからはあっという間だったなと思う。それほどまでに、獣人の特性は濃いものだった。むしろ、獣人だったからこそ、セオドアはここまで短期間で立派な体躯になれたのだと思う。本人は、獣人であるということが一種のネックなので、あまり嬉しくないかもしれないが。


「セオドア様が一人前になられるのですね。短い間でしかご一緒しておりませんが、なんだか感慨深いです」

「時間など関係ない。僕にとってヒロは助けてくれた恩人だ。悩んでる時にはいつも話を聞いてくれた。どうか成人の儀も見守っていてほしい」

「そうですね」


 返事をしながら、果たして自分の待遇はどのようになるのだろうと思った。

 それからそう経たないうちに、国王に呼び出される。


「ヒロも成人の儀に参加してほしい」


 とのことであった。


「ヒロのおかげで、セオドアはあんなに元気を取り戻した。何か与えられるものがあるかと考えたが、ヒロには名誉など与えても仕方なかろう。何か欲しいものはあるか?」

「いえ、特にございません」

「これだから迷うのだ」


 ヒロの性格は分かっていたとばかりに、国王はため息をついた。


「うーむ……成人の儀の際にパーティーが開かれることは知っておるか?」

「いえ」

「その際には国中のあちこちから人を呼ぶのだが……そうだ、ヒロ、今度は女装しようではないか!」


 ジェンソン国王はいいことを思い付いたとばかりに、声高に言った。


「セオドアには内緒で女装しよう! どうせセオドアは様々な挨拶があってヒロとともにおれぬし」

「パーティーの間、奥に引っ込んでいるとかはダメなのでしょうか?」

「そのようなことはもったいない。せっかくこちらの世界に来たのだから、こちらのパーティーも楽しまれて行かれよ。ついでに、セオドアにバレずに過ごすことができたらおもしろいと思わぬか」

「それは……そうかもしれません」


 華やかな場所は苦手だが、ヒロも悪戯好きなところがあったので、二人は意気投合した。


「オリビアにも協力してもらってだな……そうだ、カツラを用意せねばな。黒色で良いか?」

「はい。地毛に馴染んで良いと思います」

「ドレス関係はオリビアの方が詳しかろう。うむ、良き楽しみが増えたぞ」


 成人の儀だけでも嬉しいだろうに、セオドアを騙す計画も立てて、国王はご満悦だ。また準備に呼ぶと伝えられる。

 そして国王の前から下がったヒロは、セオドアのところに戻ってもどこか口元がほころんでいて、周りに突っ込まれたのだった。何とか誤魔化したが、誤魔化しきれたかは不明である。

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