成長期
男子三日会わざれば刮目して見よ、という言葉があるが、それを体現して見せたのはセオドアだった。ヒロはセオドアより数週間前から木刀を振っている。それなのに、セオドアの筋肉はどんどん育まれ、それに応じて食べる量が増え、そしてひょろひょろだった体がどんどん作られていく、いいサイクルができあがっていた。ヒロはまだ少しも筋肉が付いた様子はないのに、だ。
しかしセオドアの体がたくましくなっていくのは嬉しいことなので、お着替えの際に、なんだか良い筋肉が付いてきたぞと、ほくそ笑んでいたのはつい先日のこと。それが、ふと見れば、しなやかな筋肉がついた好青年に、一歩足をかけた状態になっているではないか。
アイザックの指導は正しかったということなのか。しかしヒロの体はあまり成長を見せていない。これはいったいどういうことなんだ。
「ねえ、ヒロ。セオドア様に興味はないの?」
「え?」
洗濯物の片手間、エナが楽しそうにヒロに聞く。
「興味って、色恋の?」
「そう」
「ええ……まず年がだいぶ離れている時点で、範疇になかったんですけど」
ヒロとセオドアは十歳以上、年が離れている。自分より十個年上を考えて、まだ考えられないなと思うとともに、セオドアの年齢があちらの世界では中学生に相当すると考えて、ますますないな、セオドアにとって自分はおばさんだと首を振る。
「私がお相手なんてセオドア様がかわいそうですよ、想像だとしても」
「でも最近のセオドア様、かっこよくなったと思わない?」
「それは思います! もう、とても!」
「セオドア様が訓練に行く度に、他の女官がちらちらひそひそ、色気だっているのよね。獣人だし、仕方ないとは思いますけど」
「獣人だし、というのは?」
洗ったシーツをパン、と広げて、洗濯紐にかけながらヒロが聞く。
「そっか。ヒロは知らなかったわね。獣人は、人より成長が早いんですよ。今までの成長分を取り込んでいる今のセオドア様だと、二十歳前くらいに相当するのかしら?」
「え、それじゃあ、あんなに急に筋肉がついたり成長したのも?」
「獣人だからですね」
はた、と、アイザックがあんなに構ってきていたのは、獣人の成長速度と混同して、ヒロの成長速度に疑問を抱いていたからではないかと思い当たった。
「ちなみにどのくらいまで成長するんですか?」
「獣人にもよるけれど、だいたいは二十代半ばでいったん成長が止まるかしら。草食動物系の方が成長のし始めが早かったり、という差はあれど、止まる年齢はだいたい同じかと」
「二十代半ば……」
「どう? 興味がわいてきたんじゃない?」
「そんな滅相もない!」
洗濯物を片付けて、エナとともに歩いていると、上から声がした。
「ヒロ、エナ!」
話の中心だったセオドアが窓から身を乗り出して名前を呼び、ごほごほと咳をした。声も何やら、ガラガラとして掠れたような感じだったが……。
ふと、ヒロとエナは顔を見合わせ、同時に言った。
「声変わり!」
二人はセオドアにおとなしくしているよう告げ、大慌てで暖かく喉に良い飲み物の準備に取り掛かったのだった。
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