王との謁見
セオドアと呼ばれた少年の、白銀に輝くであろう髪の毛はうねってきしみ、年頃の男の子であればふくふくした頬は少し痩けて赤くほてっている。閉じられた瞳は何色だろうか。頭から生えた耳は白く丸い形をしていた。健康体だったらどんなに綺麗な少年だろうか。
寝ているというのに呼吸は荒く、見ているだけでもしんどそうだ。
「十四歳になられる。しかし数年前に流行り病にかかった時から、体が弱くなられてしもうてのう。よくこのように寝込んでおられる」
ヒロは、この小さな子が十四歳という年齢だったことへの驚きと、病院へ入院すべき体ではないかという意見が入り混じり、変な返答になる。
「この子が……」
一言で言って、可哀想だった。本来なら外を駆けて回る年頃だろうに。ヒロはありがたいことに健康な体で産まれたので、持病がある子の気持ちは分からない。けれど、こういう状態にあって、不甲斐なさと歯痒さがあるだろうことは、理解している。
「普通なら、獣人という先祖帰りした者は丈夫に生まれてくるんじゃがのう。何の神の導きなのか……」
「この子を私がみるって……?」
「祈祷の結果、そうなった。ヒロに治癒の力がなかったとしても、それが導きじゃ。ヒロがみることで、セオドア様は回復に向かうと出ておる」
「みるって、私何もできないですよ!?」
「何もしなくとも良い。ヒロが思うままにセオドア様のそばに寄り添っていてくれたらよいのじゃ」
「それに何の意味が……!」
ヒロが大きな声を上げた時、セオドアが何度も強く咳をした。病人のいる部屋だったと思い出して、ヒロは少し反省する。ローガンに目礼して、食い下がるのを一旦やめた。
セオドアはその後、数回小さな咳をしてまた寝入ったので、一行は静かに部屋を出ることにした。
閉じられた扉の向こう側で、あの小さな少年が苦しんでいると思うと、心苦しく思ったが、ヒロは自分が何かを彼にもたらせるとは、到底思えなかった。
「普段は女官が側付きじゃ。食事や湯浴みの補助と、異変がないようなるべくそばに付いておる。今はセオドア様の息抜きになるように、席を少し外しておるようじゃがの」
「いえ、だから、あのように大変な状態の子を治すなんて無理ですってば」
そこへ兵士が走ってきて、ローガンの前で立ち止まった。
「ローガン様! 国王より、至急召喚した人物を連れて来られたしとのことでございます!」
「耳が早いのう。いずれにせよ挨拶に行かねばならんかったし、丁度良い」
ローガンとヒロが押し問答をしているうちに、今度は国王への謁見らしい。さすがに緊張して遠慮の姿勢を見せるも、ローガンが笑い飛ばした。
「大丈夫じゃよ。ジェンソン国王は懐の広い方であられる」
「不敬罪になったり……」
「せんよ。ここ一年は不敬罪など聞いたことがない」
「第一号になるかもしれません」
「なりはせん。何かなったとしても、わしが変わってやろう」
あれよあれよという間に流され、気付けば謁見の間へと足を運ぶことになってしまった。
どのくらいあるだろう、セオドアがいた部屋の何倍も広い部屋。奥の壁には、階段と、その天辺に玉座が二つ並んでいる。
アルフィはここに入る前に別れ、ローガンと二人だけになってしまった。知る人はローガンしかいないので、ヒロは心なしか彼の方に身を寄せて、カチンコチンに固まって立っている。
なぜなら玉座にはすでに、人が座っていたからだ。
「ローガン。そなた、祈祷召喚をやったそうだな。そしてそちらが呼び出した人、か」
「はい。異世界人でございます」
「異世界か。想像もつかんな」
「セオドア様のことを思えば、異世界ほどの者を呼び出した方が良いということかもしれませぬ」
「治療薬でもなく、人とは……どういう導きによるものなのか……」
ヒロは、想像していた国王が小太りのおじさんだったので、玉座に座っている男性が国王だとはと、ローガンとやりとりする様子をまじまじと眺めてしまった。少し焼けた小麦の肌に、青みがかった銀髪、体躯は細くも太くもなく、運動神経が良さそうな感じがした。いわゆる、イケメンというやつだ。
そして、どうやら獣人ではないようだった。ヒロは獣人の子は獣人となると思っていたので驚いたが、ローガンが先祖帰りと言っていたことを思い出し、そういうことかとひとり納得した。
「ん? そなたは女人か?」
「はい」
離れていた思考を戻し、国王の問いに頷く。
「女人でそのように髪が短いのも珍しい。そなたの世界ではそういうものなのか?」
「いえ、好みの問題でございます、陛下」
「うーむ、これもタイミングということか……よし、ヒロ。そなたは男としてセオドアの世話役になってくれ」
どういう意図で男での世話役を命じられたのか分からないけれど、ひとつだけ、これだけは絶対に聞いておかねばと、ヒロは口を開いた。
「……男の格好でもなんでも致しますが、王子様の病が治らないままだったらどうしますか……?」
ヒロとしては、瀬戸際に追い詰められたような心地で放った質問であった。しかし、王は笑った。
「その時は、その時に考えよう。何、罰したりなどせぬ。そして元の世界に返すと約束しよう。そうだなローガン」
「はい」
それを最後に、反論の余地はヒロに与えられなかったのだった。
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