女官のエナ
男装して王子の世話役になるよう任命されたヒロ。国王との謁見の後、まずは着替えるように指示された。
「なんだかよく分からないけど、元の世界の元の時間に帰れるから大丈夫。王子様の病が治らなかったとしても大丈夫。だから大丈夫よ、私」
与えられた部屋で着替えながら、ヒロは自分に言い聞かせる。
基本的にセオドアの側に付きっきりでないといけないようだったが、個人の部屋も必要だろうということで与えられたのだった。あまり使うことはないと思われるが、私物を置いておく分にはちょうどよかった。
ブラジャーを外して簡単にさらしを巻き、こちらの世界の服を着る。オフホワイトのTシャツとチノパンのような格好で、これが女性の場合はワンピースになるようだった。
着替えを終えて廊下に出ると、ローガンとアルフィが待っていた。
「おお、そうして見るとちと若い青年のようじゃの」
「今更ですけど、どうして男の格好を命じられたんですか?」
「それはおそらく、手元に元気な同性の若者を置くことで、自分もこのようにと身近な目標になればと考えられたのでしょう」
アルフィが答えた。
「ではさっそく王子の元へ行くとして。ああ、その前に女官を紹介せねばな」
ヒロの部屋はセオドアの部屋と近かったが、それ以外にある部屋の一室を訪ねる。出て来たのは、ヒロより年上に見えるすらりとした体型の獣人だった。
「普段王子の側についておる、女官のエナじゃ」
「エナです。お話はローガン様から聞いております」
「ヒロは来たばかりで何も分からんだろうから、何かあればエナを頼れば良い。わしもわしでやることがあるしの。そうじゃ、エルフィを付けようか」
良い考えを思いついたとばかりにローガンの声音が上がったが、エルフィ自身がそれを断った。
「しかしそれではローガン様の付き人がいなくなってしまうではありませんか」
「わしは気にせんがのう。ひとまずエナが付いていてくれるから大丈夫か……何かあればエルフィを付けるとしよう。ではエナ。ヒロのことをよろしく頼む」
「かしこまりました」
「ヒロ、何かあればわしを頼ってくれて良い。基本的には祈祷場におるし、文句をつける者がおったらわしの名前を出しなさい」
「分かりました」
今まで一緒にいたローガンがいなくなることはとても心細かったが、仕方ないと割り切るしかない。ヒロは心が緊張でキュッと引き締まるのを感じながら、ローガンを見送った。
そして隣に立つ女性と関わり合うことがすべきことだと、改めて向き直る。
「エナさん」
「呼び捨てでいいです、ヒロ様」
「私も世話役なので、どうぞ、私も呼び捨てで呼んでください」
「ではそのようにしましょうか。セオドア様も、世話役が様付けで呼ばれていたら変に思うものね」
「はい。あの、これから何をすれば……?」
「陛下は、ヒロの思うようにセオドアをみて欲しいと仰られたそうですよ」
「思うように……難しいですね。とりあえず、セオドア様のお部屋に行ってもいいですか?」
「ええ」
エナと一緒に、再びセオドアの部屋を訪れる。扉を開けると、やはりむわりとしたぬるくて匂う空気が辺りを覆い、ヒロはそれが気になった。
セオドアの様子を伺うと、まだ寝ているようだった。
「いつもこのように寝ていらっしゃるんですか?」
「そうね、一日の大半は寝て過ごしていらっしゃいます。元気がある時は起きて本を読んだり、食事をしたり。私も王子に付いて長いけれど、立って歩かれるのは湯浴みの時くらいかと」
じっとセオドアが荒く呼吸する様子を見ながら、ヒロは何をすべきか考える。
ローガンは、ヒロが側についているだけでいいと言っていた。けれど、側にいるだけなんて誰でもできる。それにヒロとしても、セオドアの側にいる限りはできることはしてみたい。やってやろうじゃない、という変なやる気さえ感じた。
「本当に何でもやっていいんですよね?」
「ええ。何でも、ヒロの思うようにと」
「じゃあまずは、部屋の掃除からやります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます