ふしぎなかんけい
第21話
「…あ゛?何だ、酔い潰れてんのか?…面倒臭ェな…」
「よい、つぶれて…ないっ!」
その日は本当に最悪だった。3年も付き合った彼氏に浮気をされ、挙げ句の果てに開き直って別れを告げられたのを覚えてる。
ふ し ぎ な か ん け い
適当に入ったバーで浴びるように飲んで…それから…どうしたんだっけ。
20歳になったばかりでろくにお酒の飲み方もわからないままそんな事をしたのが悪かったのかもしれない。
呆れたような声が頭上から降ってきて、顔を上げれば息が止まりそうになった。凄く…綺麗な顔の人。
「女がこんなとこで潰れてたら面倒な奴等が寄ってきて仕事増えんだよ。とっとと帰れ」
「な、何その言い方!」
「元気じゃねェか」
呆れた顔をする彼の背後、大通りの喧騒の中に確かに自分の彼氏だった男と可愛らしい女の人を確かに見た。
その瞬間プツっと自分の中の何かが切れて気付けばダバダバと目からは涙が滝のように流れてきて、ぼやけた視界の中目の前の彼が目を少し見開いたような気がした。
そして数刻後…ギシッと軋む音と背後からの熱と香水なのかシトラスの様な柑橘系の匂い。
ヤケになって言った下手くそな誘いに彼は何を思ったのか、特に何を言うでもなく乗ってきた。格好いいから多分…こういうのも慣れてるんだと思う。
「っ…ミレイ」
「…っ!」
ふわふわと意識が遠退く直前に背後から聞こえた小さな…本当に小さな呟きは酷く大きく聞こえたような気がする。
きっとこの人も届かない想いを抱えてる。終わってしまったわたしの想いなんかよりもずっと大きな、まだ終わっていないそれを。
「…で、ヤケ酒した挙句知らないイケメンとヤったと」
「あ…はははー」
「浮気男のためにそんな事しなくていいのよ!イケメンだったなら…しょうがないかもしれないけど…」
「面食い娘め…」
あれから何週間か経って、大学近くの繁華街のカフェのテラス席で高校からの友達にあの日の事を話していれば、目に入ってくるあの日の彼。
思わずガタッと派手な音を立てて立ってしまうのは…しょうがないと思う。
何でここにいるんだろうとか、そんなことで立ったわけじゃない。
「こっ…高校生だったの!?」
「…あ゛?」
「何?あんたのオトモダチ?相変わらずまァ…なんつーか…似てんのに手ェ出してんな…」
「黙っとけてめェ」
そう、彼とその友達っぽい人が身に纏っているのは大学生のわたしでも知ってる有名な高校の制服。
紅龍…!?そんな聞き慣れた単語をわたしの友達が言い、余計に驚いた。
よく考えればそうだ。あの時間、見回り、そしてこのイケメン具合。わたしの脳がそれを処理した瞬間…気を失いそうになった。
「何だ、また気失うのかてめェ」
「失わない…っ!」
「へェ」
少し楽しそうに喉を鳴らして笑う彼とその様子を物珍しそうに見てる彼の友達。
い、いつまでここにいるのかな。周囲からの視線がすごく痛いよ。
横目で友達である彼女の様子を伺えば、見事にイケメンレーダーが反応していた。目に焼き付けんばかりに2人を瞬きもせずにガン見してて…思わず見なかったふりした。
「あ…」
「あ?」
彼の友達が何かに気付いたような声を上げたからその視線の先を見れば、自分によく似た…否、それよりも赤い髪の綺麗な顔をした女の子の姿。
斜め向かいのカフェのテイクアウト用レジの横、じっとメニューを見て何にしようか考えているその子の肩を大学で見かけたことがある男の先輩が軽く叩いて声をかけている。
言葉を何回か交わして、女の子がふにゃっと笑ったのが見えたその瞬間だった。
「…っ、」
目の前の彼はそれはもう驚くスピードで向かい側に走って行き、先輩から女の子を隠すように自分の腕の中に抱き込んでいた。
まるで、誰からも取られないように…自分以外の人が触らないように。
「…分かりやすいわね、騎士も」
「…ね」
きっと…て言うか絶対、あの日無意識に彼が呟いた名前の持ち主はあの子。
本命は大事すぎて手ェ出せねェんだよ、あの人。呆れた顔をして肩をすくめる彼の友達に思わずわたしとわたしの友達は顔を見合わせた。
「なんか…尊い」
「わかる。これが推しってやつなの?」
「あんたら相当頭おかしいな」
ドン引きした顔を彼の友達から向けられたけどそれはどうでもいい事になっていた。女の子に何か文句を言いながらもどこにも行かせまいと腰に手を回す彼の何と健気なことか。
その数日後彼の事を少年と呼び、偶々会うたびに恋の進展を聞きアドバイスをするという不思議な関係が出来上がっていたのはまた別のお話。
(あのブス、)
(君は…とりあえず好きな子にブスって言うのやめよっか!)
(あいつにしか言わねェよ)
((前途多難どころじゃないよ、この子))
べつのおはなし 廻 @m_666_
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