りゅうのおはなし

第17話

「このガキだ!」




「なに…っ痛い!」






見た事もない男の人達と、暗くなる目の前に攫われてるって頭は冷静だった事を今でも覚えてる。






り ゅ う の お は な し






「おい、本当に来るんだろうな!?」




「あァ。絶対来る」






少し埃っぽい匂いと、お父さんのものでもない嗅ぎ慣れない煙草の匂い。慣れ親しんだ組員達の声でもないそれに少し身体に力が入る。




こうなる事は、何となく分かってた。自分が足手纏いな事も何もかも。




それでもお父さんは何かを渋るような反応をするし、パパもお兄ちゃんも一切関わらせたがらなかった。






「…にしても…似てねェから探し出すのに苦労したぜ」




「妹っつーから中坊くらいかと思ってたが…こんなガキだったとはなァ?」




「おい…起きてんだろ、ガキ」






息を潜めて聞いてたのがバレたその瞬間、真っ暗だった視界が明るくなる。




やっぱり見た事もない人達がそこには沢山居て、そしてあまりお兄ちゃんと変わらないくらいの年齢で少し驚いた。




もう少し大人な人達かと思ってたけど違ったらしい。






「いやに大人しいな…おいガキ。お前高瀬斗眞の妹で間違いねェな?」




「…さァ?」




「っ…兄弟揃ってバカにしやがって…!」




「おい!ガキだぞ!?」






ゴッ!そんな鈍い音の次に襲ってくる痛みとチカチカする視界。




軽くぺちりと頭を叩かれる事はあってもこんな力で殴られる事なんて今までに一度もなくて、呼吸が一瞬止まった気がした。






「その目…!高瀬にそっくりなんだよ!」




「っ…痛」




「その!俺を見下すような目が!」






無遠慮に降ってくる大きな拳の中に銀を見た。




次の瞬間飛び散る赤と、焼けるような痛み。おい!さすがにやべェだろ!?止めろ!そんな大声を気にしてなんていられなかった。




自分の左肩から流れる赤にどくりと心臓が音を立てる。






「っ…壬黎!」




「…お兄ちゃん」




「…おい…何だよ、これ…っ!」




「飛鳥、壬黎の事頼む」






その後はどうなったのかはよく分からない。ただ覚えてるのは凄い悲鳴と息苦しくなるような怒気。




そして、大丈夫だからななんて泣きそうな声で必死に腕を押さえながら車に転がり込む飛鳥くん。ただ、それだけ。




気がついた時には病院のベッドでボロボロと泣くお兄ちゃんと、珍しく眉を下げたお父さん。いつもいるはずのパパはどこにもいなかった。






「…ごめんっ、ごめんな壬黎…!」




「大丈夫だよ、お兄ちゃん」




「でも…っ!」




「あたしは、大丈夫」






だからねお父さん、お兄ちゃん。あたし、もう少し大きくなったら紅龍に入るよ。




あの時の感覚が忘れられない。死の瀬戸際、高鳴る鼓動。




きっとこの時からだったと思う。あたしがこの業界で生きていくことになると、どこか確信したのは。






(…本当に良いんだな?)



(うん、決めたから)



(あー…もう!ようこそ!紅龍へ!)



((今思えば、動機は不純))

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