かことのけつべつ
第16話
「…本当にやれんか?お前1人で」
「俺がやらなきゃいけないんすよ。ケジメとして」
「ハア…阿久津!ついて行ってやれ」
俺がやらないと今後あいつに合わせる顔もねェし、隣には立てない。
か こ と の け つ べ つ
見た事があるような気がする男の下に組み敷かれていたあいつを見て、初めて殺意というものを知った。
今まで嫌に重く感じていた無機質なそれはよく手に馴染んでいる気がする。
ぷつりと切れた何かとは裏腹に頭はやけに冷静だった…と思う。足元に転がる肉塊を見て思わず深いため息が出た。これを、あいつは毎回やってんのか。
「おい白夜。まだ終わってねェぞ」
「…わかってますよ」
「っ、白夜!」
離して!そんな高い声に振り向けば絶対にあいつの前では見せないような冷たい顔をした阿久津さんの姿。
その手に引きずられているのは見間違うこともない幼少期から隣にいた未侑の姿。
久々に見るその女は窶れている訳でもなく、以前と何も変わりない。きっとあの人がもう既にこの世にいない事を知らされていない。
「迎えに来てくれたん、」
「…お前、あの男に何させようとした?」
「あの女が悪いのよ!あたしから白夜を奪うから!」
「このガキ…」
「阿久津さん、手ェ出さないで貰っていいっすか。俺がやるんで」
阿白未侑という女は昔からそうだった。
蝶よ花よと育てられ何でも当然の如く与えられて過ごしてきたこいつは今回の事も何とも思っていない。
今ならわかる。あの連絡してきた日、壬黎は珍しくこの女を見逃した。それはきっと、少なくない時間を俺がこいつと過ごしてきたから…だと思う。いや、もしかしたら気まぐれの可能性もあるかもしれねェけど。
「いい気味よ!いっそのこと死ん…キャアアアッ!」
何の躊躇もなかった。パァン!そんな音が響き渡る。
わからねェだろうな、てめェには。その鉛弾の痛みも、あの状況の精神的な痛みも。あいつは両方味わってる。
「何で…っ!」
「本当なら天翔派に拾ってもらった時点でこうするべきだった」
「白夜はあたしのでしょ!?」
はるか昔に言われたそれが少し脳裏をよぎる。
確かに引き取られる時にそう言われて物心ついた時から隣にいた。それでも、それしか方法がないあの頃とは違う。咲夜ももう危険な目にあう事もねェ。それに…
「俺は、紅龍に入った時点で高瀬壬黎のもんだ」
あの日その台詞を躊躇なく言ったあいつは、多分どんな思いで俺がそれを聞いていたのか絶対分かってねェけど。
おい…言い争ってねェでとっととやれ。そんな阿久津さんの声で我に返る。
「拾ってくれた事は感謝してる。ただ…俺が大事にしてェのも求めてんのもお前じゃない」
「…ハア!?」
「悪ィな」
1発、2発3発。ずれる事なく貫く。
どさりと地面に沈む阿白未侑だったもの。少し震える手は、見て見ぬ振りをする。
「…じゃあな、
久々に言うその単語に少しだけの罪悪感と悲しさが胃にのしかかった気がした。
((これが同情なのか、喪失感なのかは分からない))
(お前この仕事向いてんぞ、よかったな)
(ハア?)
(初めての奴は気失う奴もいるからな)
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