さらばせいしゅん
第15話
長いようで、短いもんだった。
心配事は沢山あるけれど、きっとお前らなら上手くやっていけるだろうな。
さ ら ば せ い し ゅ ん
『答辞、卒業生代表』
はい。そう少し離れたところから返事をする声が聞こえてくる。何組の奴だったかな、あれ。
ブレザーにつけられた少し不恰好な赤い造花を眺めながら鼻を啜る音をBGMに始まる答辞に耳を傾ける。
「なァ、湊。これ終わったらクラスで写真撮るってよ」
「…ん?ああ、そうなのか?」
「お前、なんつーかさっぱりしてるよな?一応最後だぞー」
「まァ…会えないわけじゃないしな」
お前らにも、あいつらにも。そう思いながら案外短かった答辞に形ばかりの拍手を送る。
こういう式は、少し苦手だ。いつも騒がしい場所に身を置いているからか、シンと静まったこの場は居心地は良くない。
卒業ソングが流れ始め、そろそろ退場かなんて思っていれば視界の端でこっちに手を振ってくるメンバー2人の姿も見えた。
あいつら大人しくしてろって言ってるのにクラスに来るし、最後までじっとしてなかったな。
俺が抜けて、その後に壬黎達が抜ければあいつらが参謀を担うのに…それで大丈夫か?少し想像したら胃が痛くなってきた。
「さー、みんな集まれー!写真撮るぞー!」
「寄せ書きは後だ!後!」
卒業式も終わり教室の黒板の前に集められバシャバシャと何枚も写真を取られる。
ついでと言わんばかりに何人かに写真撮ろうと誘われるのに応えていれば、また視界に入ってくるメンバー達。
お前ら本当に何やってるんだ?
ため息をつきながら教室を出て2人の元へ向かえば、この学校では見ない赤茶色の頭。ちょっと待ってくれ、それは困るぞ。
「…壬黎?」
「来ちゃった」
「お前なァ…」
ほら見てみろ、お前追いかけて来た他の奴らまで来て凄いことになってるぞ。
バイクを適当に停めこっちにダラダラと向かってくる白夜達。その姿を目敏く見つける学校の奴等。
お前らが見せ物になるのは気分が良くないから紅龍の事なんて一言もこの場では喋った事ないんだけどな。
「湊、いつ戻ってこれんの?」
「20時くらいには戻れる」
じゃあ、待ってるね。そう言い残しついでに大きな荷物まで残して立ち去っていく壬黎。
こう見ると、昔よりだいぶ大人しくなったなァあいつも。
ちょっとした事ですぐ白夜と喧嘩していたのが嘘のようだ。巻き込まれて両サイドから拳のフルスイングをくらった日が脳裏をよぎる。
「湊ー、行くってよー」
「ああ、今行く」
3年間通った校舎を少し目に焼き付け、友人の元へ向かう。最後だって思うと確かに切ない気持ちになるな。
時間差で来たその気持ちに苦笑いしながら慣れ親しんだ繁華街を歩き、ボーリングをしているのを眺め。
いや、途中であいつらが来てとんでもない事になったけどな?それはそれでいつも通りだ。
「湊さーん!」
「あ、湊さん来た!」
この光景がいつも通りで、これからはそうじゃなくなる。
そう思うと俺は結構こいつらの事が好きなんだろうな。それぞれに一言ずつ言いながらしみじみと今までの事を振り返る。
こいつは入って来た時生意気だったなとか、こっちは先輩達の圧に怯えてたなとか色々思い出してきた。
舜、迷惑かけるなよ。
お前が俺達の跡を引き受けるんだからな。しっかりしてくれないと双子が大変だぞ。
朝日と夕日は学べ。
阿吽なんて大層な異名は俺にはないけど、俺だって壬黎との付き合いは長いからな。考えてる事くらい分かる。
聖夜、頼んだぞ。
きっと今までみたいに2人に振り回されそうだけどな。それでもついていけたんだから、お前なら大丈夫だ。
白夜、付き合えるといいな。
何年も前からずっと抱えてるわりに言い出そうともしなかったお前が、今それを言ってるって事は当時あった何かしらの柵がなくなったのは…俺だって気付いてるぞ。
最後に。
「壬黎、ありがとうな。お前がリーダーで本当によかった」
初対面で見学と称して連れ出されて、血塗れなお前を見た時とんでもないチームに連れてこられたなんて思ったけど、今ではそれがいかにここを守るために奮闘していたか分かる。
ちょっとだけ行きすぎた自己犠牲も、大切なものを両手に抱えきれないくせに抱えようとするのも。
そういう姿を見てきたからみんなお前について来たんだからな。
「また、夏前に来る。頑張れよお前ら」
間違いなく過去の青春と言われて振り返るのは、お前達だ。
ありがとう、本当に。俺は紅龍でよかった。
(え!地元一緒!高校どこ?俺牙龍!)
(…そ、そうか)
((よくあの無法地帯で生きてこれたな、コイツ…))
(商業の後輩が凄かったんだよね!)
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