ひとめぼれだった

第14話

これでリーダーが言ったように、龍を誘き寄せられる。目の前に倒れる紅龍のメンバーを見下ろしてそう思った。




この時までは。まさか、あんなに強いのがまだ幹部補佐なんて誰も思いもしないだろ?






ひ と め ぼ れ だ っ た







「いやいや、本当!マジ!1人にやられたの!」




「なんかの冗談だろ?つーか…紅龍じゃなかったんじゃね?」




「だって電話してたし!」







痛む頬を冷やしながらそう言えば、副リーダーにくすくすと笑われた。




おかしいな、行けって言ったのあんた達だよな?




人がボロボロになって帰ってきてんのに笑うなんて性格悪すぎじゃねェの?







「3日後って言われたんだったか?」




「そうですってば」




「噂じゃすっげェ人数少ないんだろ?あそこ。余裕じゃね?」




「そりゃあんたら幼馴染で謎に意思疎通めっちゃするから余裕でしょうね」







なァ?そんな声に気だるげに腕を上げて適当に応えるリーダー。やる気あんのかないのかわかんねェなァ。




誰よりも龍を倒すことに拘ってた人とは思えねェよ。どうせ嘘だとか思ってんだろうなァ。




これで本当に紅龍じゃなかったら俺のこの怪我なんなの?やられ損なの?







「ま、いいんじゃね。どこでも。最近滅多に抗争なんてねェし楽しそうじゃん」




「お前までそんなこと言う!」




「だってお前注意力散漫じゃん。いっつも最初にやられるじゃん」




「何の話してんの?スマブラ?」







誰もゲームの話なんてしてねェよ。馬鹿が。そうもう1人の幹部に言われて少し首を傾げる。違った?




なんかお前残念なんだよな。黙ってりゃそこそこモテんのに。ついでのようにそう言われて少し…結構!酷い。




そこそこって何だよ、そこそこって。




そりゃ確かに思ってたのと違ったとか言われるけど。思ってたのって何?って感じだし。




モテる要素について考えていたらはい、かいさーん!なんて声が聞こえてくる。全員やる気なさそうだなァ、マジで。本当に紅龍だったらお前らから1000円ずつもらうからな。







「たのもー!」







宣言通りの3日後、微妙な遅刻をしてそれは現れた。




だらりと気怠げな雰囲気をかもしだし、でもどこかギラギラと獲物を狩るのを待っているような、そんな感じのチーム。




全員が怖いくらい綺麗な顔をしているそのチームは、やっぱり紅龍だ。間違いない。







「うわ、マジで紅龍だ」




「よかったな声かけておいて」




「だから言ったじゃねェか!」







全員1000円出せやオラ!そう言えば凄く嫌そうな顔を向けられた。その顔したいの俺ね。




騒いでいれば自然と耳に入ってくる少し面倒くさそうな声。







「お喋り終わった?」







誰から発せられた物だろうか。リーダーに至ってはお前が龍?なんて一際綺麗な顔をしている男に声をかけている。




なんか凄い微妙な顔してるけど、確かに強そうだから龍かもしれない。




1人小さいのを挟んだ横にはこの間ボコボコにされた男が欠伸をしながら立っている。




紅龍って…顔面偏差値高くね?それでいて強いってやばくね?ハイスペックじゃん。




ぼーっとそんな事を思っていれば、いつの間にか始まる闘い。おっといけない。




少ない人数にやられるわけがないとみんなが確かにそう思っていた。







「…全員強くね?」




「まずいんじゃねェの?」




「え、何?俺らも出ていい感じ?」




「ああ、行ってこい」







リーダーに指示を出され、2人で手分けして苦戦してそうなところへ向かう。




つまんななんて言っている小柄な奴目掛けて拳を叩き込めばすんなりと躱された。躱されたけど。







「女ァ!?」




「取りこぼしてるよ」




「ごめんなさーい」







まったく。小さくそう呟き振り返るその人。その顔を見た瞬間ビビッときた。




あ、好きだ。顔も可愛いけど声も可愛い。何から何までタイプ。




どうしよう。連絡先聞こうかな。怒られるかな。




そわそわとそう思っている時だった。横から物凄い衝撃と、飛ぶ視界。







「痛ェ!」




「ば…っ、ハア…」




「いてて…え…何でため息つかれてんの?」




「だからお前は注意力散漫なんだ」







副リーダーにでかいため息をつかれ、ついでに拳骨まで落とされた。おかしいな。




いい加減俺らも出るか。そう呟く2人。いつの間にか沢山いた仲間達はほぼ地面に沈んでいたし、溜まり場の隅でジャンケン大会してるし、マジ紅龍やばい。







「うるせェんだよ!」




「クールに行こうよ」







決着が付き、だらりとハイタッチをする恐ろしく綺麗な2人。多分、この2人が噂の阿吽だ。




なんかかっけェ。何、阿吽って。よく分かんねェけどかっけェ。




そう思った時には目の前にこの間会った男が拳を振り上げていて視界が反転していた。







(こいつですよ、こいつ)



((近くで見るとますます可愛い。好き))



(…大丈夫?生きてんの?これ)



(…さァ?)

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