まっくらになった
第10話
それを見た瞬間、全身から血の気が引いた。
ずるりと門の内側に座り込む姿。脇腹からは流れる赤。
ま っ く ら に な っ た
「若!」
「親父は?」
「馬鹿か!」
親父さんと阿久津さんに肩を借りながら立ち上がる壬黎。ポタリ、ポタリと脇腹からは血が滴る。
目の前で起こってる事に足が、頭が動かない。
「っ…ちょっと、大丈夫?」
人の事心配してる場合かよブス。震える口ではそんな皮肉すら発する事が出来なかった。
ガクリと気を失う壬黎。バタバタと騒がしくなる屋敷の中。死という単語が脳をしめる。
あいつがいなくなったら俺はきっと、
「おい何勝手に絶望してんだ。死んでねェ」
「…痛ェ」
「おらとっとと歩け」
頭に走った衝撃に視線を上げれば呆れた顔をしている春日の姿。その後ろには咲夜もいる。
そうだよな、あいつが死ぬわけねェよな?
止血!医者は!?そんな大声が飛び交い不安が煽られる。
「つーかあいつあれより酷ェ怪我もっとしてるし、弾当たるなんて日常茶飯事だ。見た事くらいあんだろ。あいつの体の傷跡」
「…まァ」
「今回は風邪ひいてんのもあって起きとく体力がねェだけだ」
さも当たり前と言わんばかりの春日に少しむかついた。焦りはするが絶望はしねェその姿に。
何より俺よりあいつの事を知ってる、信用してると言わんばかりの物言いに。
俺らにはやる事あんだろ。特に今壬黎が倒れてんなら諜報系はお前の仕事だ。さっさと動け。そう言われて我に返る。こいつもキレてねェわけじゃねェ。
慌てて虎南さんをとっ捕まえ機材を貸せと催促すれば無言で作業場まで連れてこられ、そのまま横で作業をしてくれている。
「これからも多分こういう事あるぞ」
「…わかってます」
「もうちっとお前は耐性つけろ。いつ誰がああなっても不思議じゃねェんだ。俺も、お前も」
頭では分かっていたつもりだった。その辺の紅龍みてェなチームとも全く違うということも。
俺は、まだまだ全然弱い。
「…あ?捕まえた?…春日がやるって言ってんのか?」
そっちにやるよ。そう言い電話を切る虎南さんを見ていれば目が合い一言薊と言われる。
あの部屋か。ここに連れてこられた時に居た部屋。
あの部屋はよくそういう事の為に使われるらしい。所謂、拷問部屋。後々春日に案内された時に聞かされた。
廊下に出れば滅多に聞かない春日の怒鳴り声と何かがぶつかる音が聞こえて来る。
「白夜、大丈夫ですか?」
「…あァ。春日は?」
「中に。今はその…あまり入らない方がいいと思います」
「いや、大丈夫だ。あいつだけにやらせるわけにはいかねェだろ」
ドアを少し開ければ物凄い血の匂い。ギッとこちらを見る春日の姿に少し鳥肌が立つ。
従兄弟というだけあってその気迫はまるで抗争中に飛んで殴り続ける壬黎に似ていた。
「…白夜か」
「俺がやる」
「…好きにしろよ」
血溜まりの中呻き声を上げる男の胸倉を引っ掴み顔面に1発叩き込む。
ゲホリと口から血を吐き出す男。こいつが、あいつを殺しかけた。そう思ったら勝手に力が入る。
「おい、殺すなよ」
「…あ゛?死ねばいいじゃねェか。壬黎があんな怪我したんだ」
「ハ、さっきまで震えてた奴の台詞じゃねェな」
がくり。急に重くなったそいつを見てみれば白目を剥いている。
…死んでんな。舌でも噛んだか。ぼそりとそういう春日に咲夜は微かに頷いている。
多分、咲夜はこういう状況に慣れている。きっと俺が知らないところで阿白に使われ続けていたんだろう。
「おいお前ら。とりあえず若の処置終わった。部屋に寝かせてる」
「ありがとうございます。親父さんの所に行った後様子見に行きます」
「いや、龍慈が来なくていいからすぐにどこのどいつの仕業か調べろだとよ。虎南がそっちに取られるから春日と咲夜は龍慈の補佐に回れ。白夜、お前は虎南とだ」
行け。阿久津さんの一言で一斉に動き出す。その前にだ。
咲夜を引き止め家の鍵を渡す。
「頼みがある」
「いいです。分かってます。すぐに取って来るんで壬黎の所に」
「悪ィな」
2度と傍を離れたくねェってこんな時にまで思う俺は、多分呆れるほどの馬鹿なんだろうな。
呆れた顔の春日を無視して壬黎の部屋に入れば、痛みからか顔を顰めて小さく呻いている姿が目に入る。
するりと頬を撫でれば少し表情が和らいだ気がした。
((お前が倒れた瞬間目の前が暗くなった))
(…痛い)
(心配した)
(…ところで君達何徹目…?)
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