第9話
紅龍の本拠地は繁華街の奥にある小さな廃工場。先代が改装に改装を重ねて今や快適に過ごせる場所になっており寝泊まりも可能である。
「壬黎さん達今日泊まってきます?」
「ベッドで寝たいからノエルちゃんが譲ってくれるならいいよ」
「そこは雑魚寝で」
「適当すぎる」
聖夜はいわば訳ありで帰る場所がない。使っていない倉庫と化した部屋をメンバー達が自力でDYIをし部屋を設けていた。深夜の守り番はもっぱら彼の仕事となっておりウィンウィンではあるのだ。いささか分担量が多くはあるが、それは彼が好き好んでやっている事だった。
あと1つ部屋はあるものの今は先代が残していった大きいベッドしかない。昔は幹部勢が作戦会議とかに使ってたのだが…あまり人数がいない紅龍からすれば自然と使わなくなり、今や仮眠室となっていた。
「舜遅いな」
「どっかで喧嘩してたりして」
「笑えねェ冗談やめろよ」
ソファーに座りながら主役である壬黎と白夜はフライドチキンを食べつつ各々雑談していたのだが…ものすごい勢いで走ってくる湊が視界に入り彼女は嫌な予感がした。
「舜の奴、繁華街で鬼銀の幹部と乱闘してるらしいぞ!」
「…マジで笑えねェな」
「笑えないって言いながら何で食べるのやめないの?」
「丁度腹減ってたんだ」
「じゃあお腹満たされたなら腹ごなしに繁華街行ってきてよ」
「ハ?」
「ん?」
だって暇でしょ?壬黎が白夜に言えばものすごい勢いで首を横に振り始めていた。
(食べるのに忙しいってこと?それで太らないんだからびっくりなんだけど。)
埒が開かないと彼女が腰をあげて周りを見れば全員に勢いよく顔を逸らされる。誰も行きたくないというのは彼女もよくわかっている。なんなら自分も行きたくはないのだから。
「ノエルちゃん、行こっか」
「…俺っすか?休ませてくれないんすか?え?」
「だって白夜行かないんだもん。あたしと舜の回収デート行こうよ」
「そもそも壬黎さん1人で行けばいいじゃないっすかァ」
嫌な顔をしながらも重い腰を上げる聖夜。だがしかし少し何かを考え一瞬ニンマリと悪どい笑顔を見せた。
(絶対よくないこと考えてるなァ。)
「じゃあ壬黎さん、騒ぎおさめたら帰りにデート!して帰りましょうよ。2人で」
「いいけど…どこ行く、」
「俺が行く」
「さっき行かないって言ったよね?何なの?」
デートの部分を嫌に強調する聖夜に、いつの間にかフライドチキンを全て完食しバイクの鍵まで持って準備万端の白夜。そんな彼を壬黎は不審な顔で見るのだった。
そんなこと言ってない。しれっと嘘を吐く目の前の男はいや、思い切り行かないって態度だったじゃん。そう言う壬黎の言葉は無視して立ち上がり始めている。
「じゃ、俺行かなくてもいいっすね」
「それはないよノエルちゃん」
「白夜さんが行くっつってんなら俺行かなくてもいいじゃないっすか」
「これも夜行の仕事のうちだよ?」
「そういう時ばっかり権力乱用しないでください」
俺は休みたいっす。どっかの誰かさんと誰かさんにこき使われたから。そう言って動くもんかとソファーに腰掛け肘置きをがっちり掴んでいる。
こき使っていたのは白夜と湊なはずで壬黎は完全に巻き込み事故である。
「しょうがないな…」
「行きてェとこ考えておけよ。さすがに今から県跨ぐのは無理だからな」
「ハア?まっすぐ帰ってくるに決まってるでしょ」
「あ゛?」
「ノエルちゃんは疲れてるだろうからなんか奢ってあげようと思ったけど…白夜疲れてないじゃん」
ぺちりと白夜の背中を叩き歩くように壬黎が促した瞬間当の本人はやる気が無くなったと言わんばかりに足取りが重くなっている。
壬黎も気が重いのだがやるしかないのだ。騒ぎをおさめるというより舜をどうにか抑え込まなければ被害はどんどん拡大する一方である。
「「いってらっしゃーい」」
「復帰早々問題あったのに何でそんな楽しそうなんだろうね?」
「それって褒めてる?」
「貶してる?」
「「どっちー?」」
壬黎と白夜が付けていた鼻眼鏡と三角帽子をそれぞれ装着しパーン!とクラッカーまで鳴らし始める双子。
1番楽しんでるのは間違いなくこの2人である。壬黎は少し痛み始める胃を摩っていた。
「はいはい、大人しくしててね」
「ガキ扱いすんなよ!」
「そーだそーだ!」
「もうあたしの気分は保育士だよ」
どっちかと言えばお前も世話される方だけどなという白夜の呟きは壬黎は聞こえなかったことにした。まるで自分は世話する方だとでも言いたげなのだけはいただけない。
そして…視界の端にうつる頭を抱えている湊も壬黎は見なかったことにしていた。
「バイク出して」
「舜どうやって連れて帰ってくんだよ」
「舜だってバイクあるだろうし…最悪あたしが舜の運転して帰るよ」
暴れ足りなくて1人でどっかに移動されても困るしどっかしら怪我してたらまずいしと彼女が言えば、対して興味も無さそうにへェ。そんな返答をする白夜。
そんな彼の言動に壬黎は肩をすくめるのみである。
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