第10話
「待て壬黎!そのまま行く気か!?」
「…あァ、忘れてた」
ガシっ!頭を抱えてた筈の湊に肩を掴まれ彼女は制服のままでいることに気が付いた。ここ暫くは普通に生活をしていたのだからそれもそうである。
女であるという事は弱みにもなるというのを嫌と言うほど痛感しているからこそ、壬黎は一応どこに誰の目があるかわからない時はフードを被っていた。この辺のトップ争いをしてるチームには顔は割れてしまっているのだが。
(抗争で何かの拍子にフードが外れてバレちゃう事が殆どだったっけ。)
代替わりして鬼銀との初めての抗争で不意をつかれ銀河にフードを剥ぎ取られたのが唯一まともなバレ方だったのも思い出し、そして彼女はハッとある事に気付くのだった。
「今更シマの中で顔隠す必要あるかな…?」
「まァ…ねェ?」
「だよなァ」
「「「ある意味大有り」」」
「…何でみんな一斉に言うの?みんな実はリーダーあたしじゃ嫌?じゃあもう白夜がやる?」
「落ち着け」
どよんとした空気になる壬黎の頭を軽く叩く白夜によって彼女の暴走した思考は元に戻されていた。
いいからお前は黙ってリーダーやってればいいし外出る時はフード被っとけと白夜に言われ満足そうに頷く壬黎の何とも単純なことか。
「なんか…気持ち隠す気あんのかねェのか分かんねェな…前は絶対出さなかったろ…」
「つーか…意地でも顔隠させてんのあの人じゃん」
「それを理解してないからなァ…壬黎さん」
「末恐ろしい」
「黙れ」
がしっがしっがしっ!何かをぼやくメンバーの頭を順番に鷲掴んで行く白夜。ついでにそばにいた壬黎の頭だけは優しく撫でて始めていて全員がドン引きした顔をしている。
撫でられた当の本人は早く行って来いと言われはてなを浮かべつつ仮眠室へ足を向けていた。
「絶対理解してないっすよ、あれ」
「わかってる」
「報われないっすねェ」
「いいんだよ、別に」
そんなやり取りは壬黎にも聞こえていたのだが、彼女は表情を変えることなく聞こえなかったふりをしていた。
(…首は突っ込まない方がいい、多分。突っ込んでもはぐらかされるだけだろうし。)
聞いてもどうせ何でもないと言われる事を理解していたのである。
ひそひそと何かを話し始めた白夜と聖夜を横目に壬黎が仮眠室に入れば、でかいベッドと部屋の壁にあるクローゼット。それだけの部屋。
ベッドの上がぐしゃぐしゃしてるのは恐らく誰かが寝ていたのだろうと気持ち程度に直してやり、壁に設置されているクローゼットを開け放っていた。
壬黎が端っこに置いてある抜けた後も置き去りにした自分の袋を取り出し、スキニーとパーカーを出しいざ着替えようとした時だった。ガチャリと仮眠室のドアが開いたのは。
「壬黎さん、そう言えば…ワア」
「両手で目覆っても指の隙間からしっかり目見えてるし、ワアって何?」
「まさかもう着替えてるとは思いませんでした」
「着替えてるよ普通は!」
大きな音を立ててドアを開け入ってきた聖夜。そんな聖夜をぐいぐいと外に放り出そうと彼女は必死に押すのだが何故か動かない。
鍵かけておくんだったと後悔をしながらも押す手を緩める事はないのだが。
「壬黎さん、それわざと…じゃないっすよね、壬黎さんっすもんね」
「な、何でそんな冷静なの?」
「そもそも何で俺に胸押し付けてんだよ…柔らけェけど」
「おしっ、やわ…!?じゃあ早く出てって!」
「俺がここ動いたらあんたその格好全員に見られるんすよ」
まったくもう…そう呟きながら半分ほど開いたシャツを元に戻してやろうと聖夜が服の合わせ目に手をかけたときだった。
…あ゛?そんな低い声が彼の背後から聞こえてきたのは。まっずい…そんな聖夜の呟きも聞こえるのだが。
「てめェ…何やってんだ?」
「…いやだなァ、違いますって。誤解っすよ」
物凄い殺気を纏いぬっと聖夜の後ろから現れた白夜。
半分下着の壬黎、ワイシャツに手をかけている聖夜、現場はとんでもない状態である。じっと自分の胸に視線を送ってくる赤い目に見られている張本人はボフリと顔を真っ赤にして慌ててワイシャツの合わせ目を掻き抱いた。
物凄い舌打ちをし、そしてむんずと聖夜の首根っこを引っ掴んだ白夜の怒気に壬黎は情けなくもちょびっと震えているのだが。
「は…早く2人とも出てって…!」
「…聖夜、来い」
「でっかい誤解!本当に!ねェ白夜さん!」
ワイシャツにかけていた手をパァン!と叩き聖夜をズルズルと引きずり派手な音を立ててドアを閉める白夜。
バン!と鳴るそれに思わずひいっなんて彼女からは情けない声が出ていたのだがそれは本人のみが知る事である。
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