第8話




「「「壬黎さん、白夜さんおかえりなさーい!」」」





パンパンっ!クラッカーの音が室内には複数鳴り響いている。




溜まり場に着いた2人が扉を開けてみればこの状況でドン引きした顔をした壬黎は一歩後退りしていた。

(な、なんか準備よすぎない?)

まるで自分達が戻ってくる事に確信を持っていたようなチームメンバー達にもドン引きしていた。





「…これいつから準備してたの?」




「一週間くらい前っすね」




「連れもどせなかったらどうするつもりだったの?」




「残念でした会するつもりでした」




「…湊?」




「何だ?」





壬黎の呼びかけに反応し一歩下がった場所で彼女達に群がるメンバーを見守っていた男、湊は何かおかしいことがあっただろうかと首をかしげていた。




紅龍でも最年長である彼は壬黎が次のリーダーに無理やり指名してきた男でもある。

(…人選少しミスったのかな。いや、そんなことはないと思う。)

落ち着いた性格、そしてこのチームでは数少ない〝思考がまとも〟な人は彼以外いないはずだと壬黎は自分の采配に大きく頷くのだった。





「湊がいたのにどうしてこうなったの?」




「まァ…聖夜が駄目なら俺等が行く予定だったからな」




「何…なんて?え?」





そう、あの斗眞と飛鳥をも巻き込んだ彼らの作戦は聖夜1人が考えたものではない。参謀を担う湊もしっかりと加担していたのである。もっと言えば斗眞に頼みやって来た壬黎の周囲を人数で囲む事まで指示をしていたのは彼だった。




大惨事にならなくて良かったな?けろっと言ってのける彼もまた壬黎とは付き合いは長く、こうも追い込めば断れるわけがない事を理解していたのだ。最後の一押しで泣き落としをした聖夜もファインプレーではあるが。





「別にいいんじゃねェの?」




「何呑気にフライドチキン食べてるの?何で三角帽子被ってんの?何で私が主役ってタスキかけてんの?」




「もらった」




「…あ、そう」





珍妙な姿の白夜にこの場にやって来るまでの言い合いも含め壬黎がもう何も言うまいとため息をついた瞬間だった。颯爽と目の前にそっくりな双子かあらわれ、両腕を拘束され、カポッと何かの眼鏡を装着される。




そして右側からスマホを持った手が飛び出し、いえーい!と声が聞こえたと思ったら、カシャっとシャッター音が鳴り響いていた。




何が起こったか理解できないながらも壬黎が目の前の画面を見れば…そこには三角帽子を被りもぐもぐとフライドチキンを頬張る白夜と、満面の笑みで目の横にピースを作る双子と、呆然と立ち尽くし鼻眼鏡をかけている自分が写っている。





「な、なにこれ!?ひどい!何であたし鼻メガネなの!?もうちょっと他にあったでしょ!?」




「本当は鼻眼鏡を白夜さんにかけてー」




「三角帽子が壬黎さんだったんだけど」




「白夜さんこっちが良いって三角帽子とるからー」




「消去法ってやつ?」





誤魔化すが如くきゅるんっと可愛い表情を作る彼らに一瞬壬黎はたじろぎ、その瞬間素早く保存を押し彼女からそのスマホを遠ざけるという連携プレイをしてくる双子。




最年少ながらに親衛隊長を担う朝日あさひ夕日ゆうひ。一卵性の双子である。




そんな事よりそんな珍妙な姿を写真に残されたらどこでどう使われるか分からないと壬黎は必死である。消してと頼みつつちゃんと撮ってと催促をしていた。





「しょうがないな…撮りなおすよ?」




「うんうん、そうして」




「「はァい」」





鼻眼鏡を速攻取り双子の真似をして目の横でピースを作って、おまけにウインクまで付けて意気揚々と写真に写ろうとする壬黎。そして次の瞬間カシャカシャカシャカシャカシャ!連写をする音が部屋中に響いていた。





「…?」




「ブスもこう見ればまともだよな」




「壬黎さんかわいいっすね」





失礼な事を言ってのける白夜とそのスマホを覗き込みうんうんと頷く聖夜の2人である。




サラッと可愛いと言う聖夜に仲間内にはゴリラ扱いをされている壬黎の表情は明るくなっていた。それを不服そうに見ているのは白夜なのだが。




その視線に気付いた聖夜は白夜に向かって小さく何かを言い、そして白夜もそれに小さく何かを返しとヒソヒソ言い合い…微かに白夜が頷きくるりと方向転換をし始める。




その一連の流れを壬黎は首を傾げながらも見守っていた。変なことやり始めませんようにと祈りながら。




だがしかし、変なのは彼女の元へ向かってくる男の格好である。その頭にはまだ三角帽子、更には肩からかけた私が主役!のタスキがはためいている。鋭い目のままこっちに来る彼は自分の姿が間抜けということに気付いていない。





「壬黎」




「ん?」




「お前…か、かわ…カワウソみてェだなブス」




「真剣な顔で来ると思えば…喧嘩売ってんの?メカオタク」





その瞬間騒がしかった倉庫内がシーンと静まり返った。




マジかよ…そんな台詞と共に顔を手で覆う聖夜。ブフゥッ!吹き出すメンバー達。




そんなにカワウソに似てるっけ…と壬黎は思わずスマホの画面で自分の顔を見直したのだがあまり似てはいない。しかもブスはカワウソには関係ない。





「「白夜さん、どんまい!」」




「あたしメンタルの心配は?ねェ。確かにゴリラよりはマシだけどどうなの?ねェ!」




「悪ィ」




「その不服そうな顔で謝るのだけは本当にやめてもらっていい?」




「この壬黎…すげェ斗眞さんに似てるな」




「そっちの方がショックだよ…」





彼女も薄々気付いてはいた。自分であのポーズをした瞬間脳裏に兄である斗眞がよぎったのだ。




普段あまり似てはいない兄妹ではあるが時たま言動や表情がそっくりなのである。





「…あれ…ねェ、しゅんは?」




「あいつは始業式そうそうやらかしてまだ学校」




「舜さんがこのおかえり会の言い出しっぺなんすけどね」




「まったく…言い出しっぺなのに当日に何やらかしたのあの子」



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