第7話
「これから溜まり場行きましょ」
「これから?始業式とかは?」
「出席取ったから大丈夫っす。それに俺ら始業式出れないんで」
その辺は分けられてるんすよなんて聖夜に言われ、確かに大人しく話を聞く事は彼らには無理だろうと壬黎は勝手に納得していた。
(よく一般人と芸能人とそこらのヤンキーを同じ学校にひとまとめにしたよね…)
楽しければオールオッケー!目の横でピースを作りウインクをしてぺろっと舌を出してる斗眞が彼女の脳裏によぎり、げんなりとした顔をするのだった。
「…?どうしたんすか?嫌そうな顔して」
「どうせ斗眞さんの事思い出したんだろ」
白夜の発言は見事に正解で阿吽なんてダサい名前はあながち間違いではないのである。
そんな白夜を壬黎が見上げれば何だよなんて言いながらふにふにと優しく頬を突き始めてしまい、彼女はぺちりとその手を叩き落としている。人で遊ぶなと言わんばかりのその行動の意味も勿論白夜は理解しているのだが…また彼の手は彼女の頬に伸びていた。
「まァ…色んな意味であたしと白夜の相性はいいと思うよ」
「!?」
「誤解生む言い方すんな」
頬を突く…というよりもそれは優しく指の腹で撫でてくる白夜を止めるのを諦めた彼女がそう発言した瞬間シーンと静まる室内。頬に触れていた長い指もピタッと動きが止まっている。
その瞬間凄い音を立てて教室のドアが開かれ、壬黎に集中していた視線はそちらへと一気に向けられるのだった。
「なに…敵襲?」
「本当に馬鹿ばっかだなここは」
自分よりも身長が高い男達が近くにいるせいでその姿はすぐに壬黎から見えなかったものの、声だけで誰かが分かるほどその男と彼女は顔見知りである。
嫌そうな顔をしながら男達の間から顔を突き出した彼女の視界に入ってきたのは銀髪の男。
「お前、抜けたんじゃねェのか」
「さすがにそっちほどでかい規模の奴等だと情報も回るの早ェな…」
わざとらしく顔を手で覆う聖夜。彼からすればそれも予想通りでやって来た男も壬黎を探すだろうとわざと情報を与えていたのだが。
その横でかなり嫌悪感を醸し出しているのは白夜である。白夜は銀髪の男、
「君までここの生徒なの?何でここに来んの?何でそんな平然としてんの?馬鹿なの?死ぬの?」
「やかましい。龍と騎士が編入して来た噂はもう商業科中に広まってる。それに、てめェが会いてェなら来いって言ったんだろうが」
「そんなこと言ったっけ?」
「下の奴がそう報告して来た」
「…あァ、あの廊下の」
お前編入そうそう何かに巻き込まれてんのかよ。そう言わんばかりの白夜の赤い目が壬黎を見やり、彼女はそれから誤魔化す如く視線を逸らしていた。
(何人もの男を体に引っ付けてた人に言われたくないんだけど。)
「…君のとことは不戦協定組んだじゃん。お互い戦力削るのは痛手だし、そっちの連合崩壊するかもしれないしって」
「誰もこっちが潰れるとは言ってねェ。舐めるのも大概にしろ」
「いやだなァ、前にそっちからふっかけてきた時の事を思い出してみなよ」
君、この子にやられたんだよ?あたしにたどり着く前に。煽るように言い放ち未だに自分の腹に顔を埋める聖夜の頭を指差す壬黎。
その仕草でハッとした顔をする白夜は凄い勢いで聖夜の頭に拳骨を落としてる。ってェ!いつまでそこに顔当ててんだよてめェ。そんなやり取りが彼女の横で行われていた。
「うるせェ」
「あ、お見舞いのりんご届いた?」
「お前ここで潰されてェのか?」
「やっぱメロンの方がよかった?」
「ぶっ潰す」
バキバキと指を鳴らし3人に近付いてくる銀河。
あ、やばい。誰かが呟いた声が聞こえた瞬間物凄い数の足音が響きあっという間に教室は壬黎と白夜、銀河を残しすっからかんになった。
さっきまでそこに居たはずの聖夜でさえいなくなっている。
(こういう時だけ息が合うの?他はてんでダメなのに。)
「壬黎、煽るな面倒臭ェ」
「だってなんもわかってないじゃん」
顔目掛けて飛んでくる銀河の拳を壬黎は軽々と受け止めており、加減はしたものの受け止められた張本人の顔はこれでもかってぐらい歪んでいる。
「君らの連合なんて紅龍だけで潰せるよ。お情けで生き残ってる事自覚しなよ」
「チッ!」
「ノエルちゃんにやられてよかったね?」
「煽るな。次やったら斗眞さんのところ連れて行くぞブス」
「兄貴の所に連れてかれるのは嫌だけど…なんなの?親なの?」
馬鹿か。べちん!物凄い力で白夜に頭を叩かれてその拍子にバランスを崩して壬黎が飛び込んだ先は先程煽りに煽りまくった銀河の腕の中。
(絞め殺される。あんだけ煽ったら殺される。間違いない。)
きゅっと背に回る腕に彼女は少し身を強張らせたのだが…
「あっぶね…」
「…?」
絞め殺されると思いきや案外優しく受け止められグレーの目が点になり、見当違いな自分の解釈に納得していた。
(あァ、なるほど。力加減はするんだ。)
女の人の扱いは困ってなさそうだもんねと1人悠長に頷いている。目の前男が入院する羽目になったその抗争の3日ほど前に綺麗な女の人とホテルから出てくる姿を思い出し、そしてアフターフォローはしっかりするタイプな事に意外って思った記憶が彼女にはしっかりとあった。
「っ、てめェ壬黎から離れろ」
「…まず白夜が頭凄い勢いで叩かなきゃよかったんじゃないかな」
「お前が悪ィだろ」
「2人揃って仲悪いくせになんでこんな時だけ意気投合するんだろう」
ムッとした顔で地団駄を踏み始める壬黎の足は間違って銀河の足を踏んでしまった。それはもうムギュッと凄い勢いで踏んだ。
彼女が恐る恐る見上げた先には恐ろしく無表情の鬼がいて思わずきゅっと口を噤んだのである。
「ご、ごめん」
「貸し1」
「…ハイ」
貸し1?とハテナを浮かべながらも抗争にもならず変な動きも見せない彼に壬黎は少し安堵しながらも適当に頷いたのだが、頷いてんじゃねェなんて白夜が後ろで文句を言い始めていた。
その貸しがいつどこでどう彼女の身に降りかかってくるのか頷いた当の本人はあまり理解をしていない。
「こんな所で油売ってていいのかよ」
「何で?」
「…戻るんだろ、紅龍に。ここに来た時点で他のチームの標的だぞ。特にお前」
今までお前の顔知らなかったやつも居るしと面倒臭そうに銀河からそう告げられ、教室に来る前に絡んで来たのは少なくともトップ争いに食い込むチームに所属している事を理解した壬黎は物凄く嫌そうな顔をするのだった。
そもそも馬鹿でかい声で彼女のことを龍と呼び意気揚々と倒そうとした鬼銀所属の男が全ての発端なのだが。
「…上手く逃げればいけるかなァ」
「毎日来る必要もねェだろ」
「楽観過ぎかお前ら」
「基本行き当たりばったりなのが紅龍のスタンスだからね」
自由人が多すぎて何とかなるが紅龍御一行の口癖である。
多用してるのは言わずもがなそこのリーダーである壬黎なのだが。
「とりあえず…溜まり場に顔出そっか。白夜バイク?」
「あァ」
「ならあたしも乗っけて」
小さく頷かれバイク校門まで回して来ると白夜はさっさと教室を出て行ってしまった。
まだ壬黎の背に回されていた銀河の手をパァン!と叩き引き剥がしてから。
「…銀河はバレてないと思った?」
「何をだよ」
「あたし達が辞めようとした理由嗅ぎまわってるでしょ」
「んな事してねェ」
しらばっくれる銀河だが証拠は既に壬黎の手の内、そして僅かに泳いだ水色の目もしっかりと彼女は見逃さなかった。
そんなに気になるものなのかなと思案しながらも一切教える気も彼女にはない。
「言っておくけど…どんな手を使っても無駄だよ。ハッキングも、脅しも」
「わかんねェだろ」
「情報を守ってるのはうちの参謀だけじゃない。あのメカオタクがやってるし。それにうちの子達はなんも知らないよ。力なんてもっての外、そもそも勝てないでしょ?」
「嫌な女」
「褒めてる?ありがと」
頑張ってみればァ?またもや煽るようにそう言い放ち彼女は颯爽と教室を後にするのだった。取り残された銀河のクソ女!そんな怒号が響くのも気にせずに。
「…高橋に甘すぎんじゃねェか?」
「そうかな?好敵手はいた方がみんな燃えるんじゃない?」
壬黎が校門まで行けば彼女が所有している物より大きなバイクに跨り煙草を吸っていた白夜がそう言う。
そもそも制服着て校門の前で堂々と煙草を吸っているその姿が可笑しいのだが。何でもありな壬黎の兄もさすがにそういう所は煩いのである。
見えないところでやりなさい!と怒る部分がちょっと可笑しいのはさておきではあるが。
「ちゃんと忠告してきたんだろ」
「した所でだけど…必死なのは見てて面白いよ」
「まァ…厳重にしとく」
「うん、ありがと」
先程の銀河と壬黎の会話でメカオタクと称されたのは白夜だった。彼の趣味はプログラミングやアプリ開発、そしてハッキングである。付随して本体や周辺機器にも詳しい…否、詳しすぎるのだ。
あたしにはさっぱりわかんないけど。壬黎はそう思いながらも差し出されたヘルメットを受け取り、そしてバイクに乗ろうとしたのだが…その行動をじっと赤い目に見られてヘルメットの下で顔を歪めた。
「…ねェ」
「あ?」
「そんなマジマジ見て人の下着でも見たいの?変態」
「見せてくれんのか。痴女だなブス」
「今すぐ轢き殺してやるメカオタク」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます