終わらない鬼ごっこ

影守 燈

第一章「鬼さん遊ぼ」


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夏の日の夕方、まだ赤く染まる空の下。風が湿った土の匂いを運び、蝉の声が遠くに消えかけていた。


「ねえ、早く帰ろうよ」

小学五年生の菜月(なつき)は眉をひそめ、弟の裕人(ゆうと)を急かした。彼らは近所の小さな公園で遊んでいたが、そろそろ帰る時間だ。


裕人はブランコの上で足をばたつかせながら、にやりと笑った。

「あと少し! 鬼ごっこしようよ!」

「もういいよ。疲れたし、お母さん怒るよ」


だが、その時――。裕人はふと、誰かの言葉を思い出した。

「そうだ!ねえ、あれやってみようよ。『鬼さん遊ぼ』ってやつ」

「……何それ?」菜月は不機嫌そうに眉をひそめた。

「知らないの? この公園の怪談だよ。言ってみたら面白いことが起こるんだって!」


裕人は楽しげに、遊具の真ん中に立った。そして――。


「鬼さん、遊ぼ!」


その瞬間だった。風がぴたりと止まり、蝉の声がふっと消えた。菜月は思わず周囲を見渡す。さっきまで子供たちの遊ぶ声や、犬の散歩をする人の気配があったはずなのに、今は誰もいない。


――ざっ……ざっ……。


何かが砂利を踏む音がした。遠くから、低い笑い声が響く。


「……何かいる」菜月は小さくつぶやいた。


裕人が遊具の上で固まったまま動かない。彼の目は一点を見つめている。そこには――。


公園の隅にある古びたジャングルジム。その中から、何者かがじっとこちらを見ていた。



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2024年12月25日 17:00
2025年1月1日 17:00
2025年1月8日 17:00

終わらない鬼ごっこ 影守 燈 @m-k_21

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