ソフィア—妖魔村—
月咲 幻詠
第1話 バンパイアハンター
落日が山の端を紅く染め上げ、恐ろしい夜の闇を待っている。その日はまだ秋にも関わらず凍てつくように寒く、草木は既に枯れ果て、風でさえ旅をすることを知らなかった。
死を想起させるこのセルビアの大地に、燃えるような夕日を前に、既に闇へと沈んだ谷の奥から漆黒の
彼女は透き通るように白い繊細な手で
しかし、下りてさえしまえば、ここから見える小村「キシロヴァ村」まではあと少しである。
女は軽く溜息を吐くと、大儀そうに歩を進める。いや、「歩を進めようとした」と書いた方が適切か。
「待って」
恐怖に上ずったような、しかし切羽詰まった高い声がした。呼び止められた女は、外套の端で口元を隠しつつ、
そこにはワインやニンニクの花の入った木製のバスケットを持った、赤い頭巾の小柄な少女が立っていた。
「この先に、何の用ですか」
少女の問いに、女は
「貴女は何者なの?」
また返事が返ってこなければどうしようか。そのような不安が少女の頭をよぎる。無意識に引ける腰に、震える手を胸に持っていく仕草はまるで小動物のようだ。
「……ソフィア。ハンターの仕事でここへ来た」
ここで初めて女が口を開いた。呟くような、低く落ち着いた声が、しかしはっきりと響く。
少女はなにか希望を見出したような顔をして言った。
「ハンター……もしかして、村長が頼んだバンパイアハンター?」
ソフィアと名乗った女は彼女の問いに静かに頷いた。
バンパイアハンター。太古より人々の血を
彼女はその中でもより強い力を持つヴァンピーラだった。
ヴァンピーラとは、吸血鬼と人間の間に生まれた女性のことである。
「よかった! 私はフレヤ、一応村長の養女です」
「何故、村の外にいる」
村では吸血鬼被害にあたって、不要な外出を控えるよう達しが出ていたはずだ。それが、このように小さな娘が村の外へ出るのを許すとは。
「私の友達に、喉に噛んだような傷があるんです」
だから一人で友人を何とかしようとして村を出ていたのだろう。バスケットに入ったワインもニンニクの花も、吸血鬼対策に使われるものだ。その健気な姿に、ソフィアは少なからず好感を抱いた。
「案内します。ついて、来てくれますか」
ソフィア—妖魔村— 月咲 幻詠 @tarakopasuta125
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