第2話

 人心と人間の戦争が終わってから五百年。人心は人間と敵対する者しか生まれなかったが、戦争後は人間に敵意が無く友好的な人心が生まれようになった。その人間に敵意が無く友好的な人心を“人間”として人々は扱い始めた。それから五百年近く経ち、今は人間と人心は固い信頼関係を持って暮らせている。

「お兄ちゃん! 朝ごはんできたよ!」

 そんな世の中で十五才の金色の髪に金色の瞳で可愛らしい少年、ミラ・クレイリットは暮らしていた。住む家の自室は簡素なものだ。ベットに勉強の机、クローゼットなどが置かれている。

 今は勉強中で妹のフラが朝ごはんができた事を伝えにきたところだ。

「フラ、伝えてくれてありがとう」

 お礼を言いつつ、通信機をポケットに入れて立ち上がる。

「いえいえ、どういたしまして。それよりもどう? 今日の僕のコーデは!」

 緑色のボブヘアに緑色の瞳で十四才、明るい妹は可愛らしい上下共にフリフリが付いた服を見せてくる。

「かわいいよ。すごく似合ってる」

 ミラは答え、笑顔を見せる。

「ありがとう! でも、お兄ちゃんの方がかわいいよ……!」

「やめて、恥ずかしいから……」

 頬をツンツンされながら、恥ずかしがるミラ。それを笑顔でツンツンするのをやめないフラ。

 でも、なんだか嬉しかった。妹がお兄ちゃん大好きっ子だからだろうか?

「フラ、それよりも朝ごはん食べないと」

「あ! そうだった! 行こうお兄ちゃん!」

 フラに手を引っ張れながら階段を降りる。自宅はレンガ造りの二階建てで、父親のブレンと母親のマーリとフラ、そして、ミラの自室がある一階はリビング、キッチン、お風呂とトイレがあり、くつろぐ場所だ。やがて、一階にたどり着き、父と母の姿が見える。二人は共に四人が座れるテーブルの椅子に座っていて、もう朝ごはんが置いてあった。

 今日の朝ごはんは焼いたベーコンにフレンチトースト、スープにサラダ。どれもできたてで美味しそう。

「父さん、母さん。いつもありがとう」

 いつもごはんを作ってくれる父と母にお礼を言いつつ、席につく。 

「当たり前だから、気にすんな」

「やーもう。嬉しいわ」

 父と母が各々の反応を見せる。二人共、少し、照れていた。

 とりあえず、フレンチトーストから食べる。クセの少ない甘さにふわふわ食感がたまらない。

「それよりも二人共、二週間後にはイリアットの入学試験だろ? 準備は万全か?」

 イリアット、それは十代の中で世界トップクラスの強さを持つ者しか入学できず、試験の上位三グループ以内に入れば、シュゲルという対犯罪機関にいきなり、入る事が出来る。

 二人は遠く離れたイリアットがあるイゼアという大都市に行き、受験する予定だ。

 イリアットに入学したい理由は、フラは兄のミラが入りたがっているからであり、ミラはガント・マイナルという名の人心を捕まえるための最短ルートのシュゲルに入るためだ。また、シュゲルに入る最短ルートはイリアットの入学試験で上位三グループ以内に入る事である。

(入学したい理由は誤魔化しておかないと)

 ただ、訳あって理由は誤魔化している。

 正義のためと。

「でも、すごいわねぇ。二人共に戦いの才能があるなんて」

 そう、ミラとフラはイリアットに合格できるかもしれないレベルの才能があり、両親はイリアットを受験する事を賛成している。

 本当にありがたい。

「運が良かっただけだよ」

 ミラはスープをスプーンですくいながら答える。

「いや二人共、信じられない程、努力しているじゃないか。今日だって、朝ごはん食べたら、もうトレーニングだろ?」

 ブレンがフレンチトーストをかじりながら返す。

「そうよ。二人共、頑張っているから周りに才能があると思われているんじゃない?」

 マーリがブレンに続けて言った。

「……そうかもね」

 ちょっと照れるミラ。その横でフラはもう朝ごはんを食べ終えていた。

「朝ごはんありがとう。じゃあ、お兄ちゃん! 先に行ってるね!」

 フラはいつもトレーニングをする場所に早々と向かっていった。

「フラはもう受験が近いからか、早いわねぇ」

「そりゃそうだろう。これだけの努力をしないとイリアットには入れねぇんだから」

「……そうだね」

 ブレンとマーリが話す中、己ももっと頑張らなければと思うミラ。妹にも負けないために。

 





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